花を剪る

中田満帆

短歌



    *



 わがための墓はあらずや幼な子の両手にあふる桔梗あるのみ



 いっぽんの麦残されて荒れ野あり わが加害 わが反逆



 ひだまりのなかで瞑目する晌(まひる)らしさにだまされてゐて



 愛語なきまま暮れゆく晩年よ古帽子のごときものかな



 ぼくもまた充たされながら誤解する花のなまえの由来について



 装丁家校閲係印刷工作者の悪夢いま売りにでる



 銃後にて向日葵が咲く戦いのむなしさなどを嚙みしめるのみ


 

 胡葱のような素足でバレイする少女のひとり暗闇に声



 春菓子の匂いのなかに過去を見る男の頭蓋いま回転す



 天秤のうえを切なくゆれる石わが魂しいの代わりなりたり



 草原に馬が一頭走るなかソーダ水の泡が消えゆく



 時沈む軍国兵士募集広告日当¥5万2千より



 葡萄の実が爆発する夜 ふいにわが腿のうらにて蜘蛛が這うかな



 地下鉄にゆられる少女ためいきがやがて河となり馬となる



 真夜中の菜の花畑が帯電す 手を伸ばしてはいけないところ



 沈む石 ものみなやがて忘れゆくわがためにあれ固茹で卵



 散骨のような莇(あざみ)が咲き誇る冥府の午後の世界線かな



 初夏(はつなつ)のことばのかぎり愛を問う死を待つような静かな通り



 心ばかりの花さえも剪られ一瞬のさむざむしさよ



 花を剪る花を剪る花を剪るそう告げて行方知れずの男



   *


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花を剪る 中田満帆 @mitzho84

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