第二十一話 授かり物

「大丈夫ですか?」


 女の子の意識がある様子に、俺は思わずそう、声をかけてしまう。話していた内容には若干、引っ掛かるものを感じた。しかし、その幼い声と、明らかに小さな子が囚われている姿は放っておけるものでは無かった。


 そして何より、白ポメに向けた幼い少女のその声と表情は、愛情に満ちているように感じられたのだ。互いがとても大切な友達だと、感じさせるぐらいに。


 俺は茜さんの方を見ると、ちょうど茜さんも俺の方を見ていて、目が合う。頷き合う俺たち。


 俺たちはそのまま、少女の両手をそれぞれ束縛している二本の蔦を外そうと、足早に近づく。


「だめです、八郎さん。剣が全く刃が通りません……」

「こっちもだ。見た目も細いし、さわった感じも柔らかいのにっ! ふっ! ──全く引きちぎれない」


 愛用の剣を抜き放ち、片手でおさえた蔦を切ろうと試みる茜さん。

 俺もカンストさせた剛力スキルの限りを尽くして引きちぎろうとするも、びくともしない。次に少女の手に巻き付いている部分をほどこうとする。しかしまるで、癒着しているかのように固定されてしまっている。


「──善良な方々、この子を連れてきてありがとう」

「ねえ、君。大丈夫? 痛いところはない? お姉さん達が、すぐに助けてあげるからね」


 茜さんが、安心させるように少女へと声をかける。それを不思議そうに見ている少女。

 ワンワンワンと何か語りかけるように白ポメがそんな少女に吠えかけている。


「……そうなの。お姉さん、それは、外れないの。でも大丈夫。僕にはその子が来てくれたから」

「えっ?」

「僕はマガツヒノセオリツ。お姉さん、これをあげるね。僕の顔の下に手を」


 思わずといった様子でマガツヒノセオリツと名乗った少女の顔の下に片手を差し出す茜さん。

 俺は随分と物騒な名だなと思いながら、諦め悪く、まだ蔦を引きちぎろうとしていた。


 そうしているうちに、少女の瞳からこぼれた涙が頬を通り、滴り落ちる。その雫が茜さんの手の上に落ちると、不思議なことに、指輪へと変わっていた。


「──ええっ!? 涙が……」

「お兄さんも、三千年をありがとう。この子はとても大切なの。お兄さんのおかげ。さあ、手を」

「いや、ちよっとまっ」


 俺は、マガツヒノセオリツの声に逆らえない。

 蔦を握っていた両手がいつの間にか離れて、少女の顔の下に移動する。

すると、マガツヒノセオリツの両目から零れた涙が、二つの雫となって俺の両手へと落ちてきた。

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