早瀬はづき

かがやいた埃のような御堂筋線の匂いの中をまどろむ


針状の結晶をなす感情は針でないから折らなくていい


ひとりになれば身体のうろを落ちてくる雨をきみにも降らせたいのに


片麻痺の非麻痺のほうに立っている教会それのゆうぐれの鐘


まぼろしの海の水位がさがるまで教えのとおり禁酒する夜


いつかきみを十年に一度だけ咲く花の毒素に喩えてもいい?


横顔は削がれた顔だ 金剛を割るのであればまっすぐ縦に


スローロリスのこの世が見えているほうの瞳を見つめれば匂いたつ水


ベチバーのオー・デ・コロンを夜夜中ひかりの忌避剤としてつかう


水瓶をさかさまにもつ水瓶座もう水が涸れることはないから


肋には野薔薇がつよく巻きついていて目が合えばいっせいに咲く


生前のきみの背骨をなぞるとき聞こえる鴆の羽音 すずしい


毒もみをわたしの中でしてみたい心臓からじゃなくていいけど


水を溜めるための臓器がわたしにもきみにもあってときに波打つ


胸元に顔をうめてもきみの言うポトスは(ポトスの鉢も)見えない


狂ったひとがいちばん美しいなどと思えば凝固する方砒素華


きみにしずむさわれる骨もさわれない骨もきれいだ手すりみたいで


もっと近くにくれば見えるよ脳内の芹が群生しているところ


(きみのもつ毒のすべては光毒性でないから)つける蝋燭


きんいろの林のゆめへいくために手首の脈に吹く寝香水

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早瀬はづき @haduki_tanka

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