空耳のお伽噺

神永 遙麦

空耳のお伽噺

 ピーターパンは来てくれなかった。



 ちっちゃい頃からずっと窓から星を見てた。

 どの星を見ればいいのか分からなかったけど。夜になると星を見に行った。

 だから夜ふかし以外は大人しくて手の掛からない子だったらしい。弟達はすごく手が掛かったってお母さんって叫んでた。


 そう、私はウェンディと同じで弟が2人いる。3人兄弟の長女でウェンディと同じ立場。小説家は目指してないけど。

 なのに、4歳を過ぎて8歳になっても、8歳を過ぎても、ピーターパンは来なかった。12歳の誕生日は、「今年が最後の希望かもしれない」そう思いながら、いつもより夜ふかしをした。


 あれから1年経って、明日で13歳になる。

 今年はもう、星を見たくない。ウェンディは12歳だった。スマホの電源を切って布団に籠もった。目をつぶった時、脳裏によぎったのは毎年、毎月、毎日眺めていた星空。思い出したくもない。

 1階では罵声が響いている。そのうち、また通報されるんだろうなぁ。お母さんの悲鳴が聞こえる。私の横には弟がいる。龍登は半泣きしてる。達哉は慣れて無視を決め込んでいる。1階に行ったら巻き込まれるだけだから。

 正直、無視してても精神的に来るんだけど。学校では「いじめられている子がいたら無視しないで助けてあげましょう」とか「黙っていないで先生に言いましょう」とか甘っちょろいことを言う。どうせ無視する癖に。


 体の向きを変えて天井を見た。当たり前だけど、何もない。せめて花模様だったら良かったのに。


 小さい頃はこの時間が好きだった。目を瞑れば、いつだってそこにピーターパンがいて、ネバーランドに連れて行ってくれたから。

 ティンカー・ベルの力を借りて、空を飛んでみたかった。フック船長を罠でおびき寄せてワニの口ン中にドボンさせてやりたかった。ロスト・ボーイズと一緒にネバーランドで冒険してみたかった。


 ティーンネイジャーになろうとしている今。もう、叶わないだろうけど。


 空には幾億もの星がある。この季節だけでも、たくさんある。

 東の空にはヘルクレス座、こと座、いるか座。オリオン座、おうし座、ペルセウス座。南の空にはつる座、けんびきょう座、ろ座。北の空にはおおぐま座、やまねこ座、こぐま座。あと、アンドロメダ銀河もある。1番明るい星のシリウスもある。

 なのに、なんでたった1つの星がないんだろう?


 もういいや、寝ちゃえ。

 私は寝返りを打った。


 その時、チリンという空耳が聞こえたような気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空耳のお伽噺 神永 遙麦 @hosanna_7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画