夢をなぞる

石動 朔

ユイ

閉じた目の先に映る虚無を唄に変えて、

私は今、この浮橋から飛び降りる。


ある男が星を見ながら歩いていた一瞬、

なんでもない彗星はそれにこつんとぶつかり、

呑気な小熊が尾を引いてどこかへ消えてしまう。

傍らに浮かぶたった一つの泡沫は儚く割れて、

跳んだ何かが空でない空を宙に描いていた。


二人のすれ違いは一切れのささくれのように、

小さく、そして深く道なき道を掻き分ける。

やがて海は割れ、まるで地平を翔ける鳥の様に、

オックスブラッドの真珠がこぼれ落ちる。

それを足元で立っていた私達は、

雛鳥のように口を開けて待っている。


そんなの、馬鹿みたいじゃないか。


都会のビル群は影を無くし、

空は紫雲の如く君らに近づいていく。

それは世界の始まりを意味し、

パンケーキのバターが滑り落ちるみたいに、

「ぼとり」と、力なく腕を落とす。


そして最後にするべきこととは、

君であるが君ではない君の手と、

透明な私のつるで隙間を絡ませ、きつく繋ぎ合わせる。

ただそれだけ。

そしていつか、あの梅の花が咲くことを願い、

私は空っぽのポケットからそっと、


そっと、飾り気のない小指をぶら下げて、

屈託もなく、声を上げて笑うのだ。


物語はこれでおしまい。



「きっと、私は主人公になるのだから。」

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夢をなぞる 石動 朔 @sunameri3

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