第44話 世界剣術大会へ出発!①

 4月1日、午後2時──。


 僕──ダナン・アンテルドは、今、アイリーン、パトリシア、ランダース、そしてもう一人──マリー・エステランさんと一緒に、ライリンクス王国の南にいる。


 そこはライルコースこう大桟橋だいさんばしという場所。


 世界剣術大会が開催かいさいされるジャパルジアへ、豪華客船に乗って出発するためだ。


 僕は左手の松葉杖を突きながら、港に来た。


 出場選手の剣術家も、ちらほら見える。


 報道陣もたくさんいる。


 だが、それどころじゃない!


 大桟橋だいさんばしには来たが、ジャパルジアに行けるかどうか、分からないのだ。


 問題が発生している。


 僕が所属しているマルスタ・ギルドのギルド長も、一緒に世界剣術大会に行かなければならない。


 しかし、肝心かんじんのギルド長の国王……いや、ブーリン氏は入院中だ!


 そこで、僕はマリー・エステランさんに、臨時のギルド長代理を頼んだ。


「だから! 私がマルスタ・ギルドの、臨時のギルド長になるって言ってるじゃないの!」


 一緒に来てくれたマリーさんは、テント小屋の世界剣術大会の役員に詰め寄った。


「マリーさんねえ、一度、ランゼルフ・ギルドのギルド長の資格を失われていますよねぇ、あなた」


 驚いたことに、その大会役員はドルガーの腰ぎんちゃく、ジョルジュだった。


 コネでも使って、役員になったのか? ど、どういうことだ?


「一度、ギルド長の資格を失っている方は、臨時でもギルド長と認められないんで」


 ジョルジュはにんまり笑って、マリーさんに言った。


 あいつ! 僕らを世界剣術大会に出場させない気だな!


 多分ドルガーに、僕らの出場を阻止そしするように言われたのだ。


「ギルドに、そんな規則きそくはなかったはずよ!」


 マリーさんは声を上げたが、ジョルジュはクスクス笑っている。


「さあ? 僕は規則きそく通りに申し上げているだけですよ~。残念」


 そのとき丸々太った、メガネをかけたヒゲの男が歩いてきた。


 大会役員長の腕章を、腕にはめている。


「さわがしいですなあ。私はバーデン・マックスという者だ。世界剣術大会、ライリンクス王国選手団の役員長を務めておる」


 おや? 見たことがあるぞ、この男!


「あなたは! バーデン・マックスさん?」


 マリーさんは声を上げた。


 バ、バーデン・マックス?


 ドルガーの父親だ! そして、ランゼルフ・ギルドの創業者だ。


 マリーさんはランゼルフ・ギルドの元ギルド長なので、マックス氏と面識めんしきがあるはず。


 僕といえば、マックス氏と小さい頃、何度も会ったことがある。


「久しぶりだな、マリーさん」


 マックス氏は、ポケットに手を突っ込みながら言った。


「ジョルジュ君が言うような、その~……規則きそくがあってね。一度ギルド長をやめた者は、再びギルド長には就任しゅうにんできないんだよ」

「ウソです! ギルドの規則きそくでは、一度ギルド長をやめた者でも、ギルド所属者の支持があれば、ギルド長に復職ふくしょくできるはず!」

「私は大商人だ。この世界剣術大会のスポンサーでもあるんだよ? 大金を出しているんだ」


 マックス氏は当然、口調が強くなった。


 まるで威嚇いかくするような口調だ。


「マルスタ・ギルドは今後二度と、大会に出場できなくしてやろうか?」

「へえ、息子のドルガーに何か言われたの? 『パパ、ダナンを出場させないでよ』とか」


 マリーさんは言葉を返した。


 しかし、マックス氏はイライラをしながら、「知らんな」と言いつつ腕時計を見ている。


「あなたの息子……ドルガーは、ダナンとの試合で魔獣に変身した!」


 マリーさんは声を上げた。


「息子が、試合であんな恐ろしい反則行為をしたくせに、よく言えたものね」

「フン。私は魔法についてはよく分からん。息子から、あれも技術の一つだと聞いている。……まあ、私も最初は驚いたがな」


 マックス氏はそんなことはどうでもよい、という顔だ。


「息子は、すでに豪華客船に乗り込んでいるんだ。もういいかね? さ、帰ってくれ」


 マックス氏は舌打ちしつつ、マリーさんをにらみつけた。


 肝心のドルガーも、やはりここに来ている!

 

 つまり、世界剣術大会に出場するわけだ。


 こないだの試合の魔獣変身は、おとがめなしか。


 すると、ジョルジュは得意気になって、口を開いた。


「とにかく、マリーさんは現在、ギルド長じゃないですよね? 今回は、マルスタ・ギルドの選手は、出場をあきらめるしかないですねぇ?」


 ドルガーが出場するなら、僕も出場して、ドルガーをもう一度倒さなくてはいけない。


 長年、アイリーンの心を傷つけ、手下を使って僕を事故に合わせたんだからな。


 しかし、このままでは、僕は出場できないぞ? どうする?


 するとその時……!


「話は、すべて聞いていたぞ……」


 かすれているが、しんの強そうな男の声が、僕の後ろでした。


 どよっ……。


 報道陣が驚きの声を上げる。


 アイリーンが叫んだ。


「ダナン! 国王様よ!」


 えっ?

 

 僕が振り返ると、そこにはライリンクス国王が車椅子に座っていた! 

  

 ブーリンさんだ!


 執事しつじのマイケルダール氏が、車椅子を押している。


 な、何で、大桟橋だいさんばしにいるんだ?


「ダナン君……私にまかせろ。君は世界剣術大会に、出場できる……」


 国王は、せこけた顔をしていたが、僕にそう言った。


 ◇ ◇ ◇


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