第27話 その頃、勇者ドルガーは⑤【勇者ドルガー視点】

 ここは中央都市ガーランディア。


 ライリンクス王国で、最も大きな都市である。


 その大通りに、「全国勇者協会」という大きな建物があった。


 その大ホールでは、「全勇者大交流会」が開かれていた。


 全国からたくさんの勇者が集まり、交流するのである。


 今年は百名以上の勇者が集まった。


 彼ら勇者は、最新の魔物の情報や剣術、世界情勢などの情報交換をする。


「やあ、ドルガー君。久しぶりだね」


 目の鋭い美男子が、ドルガーの座っているソファの前に腰掛けた。


 ドルガーも一応、勇者なので、全勇者大交流会に出席していた。


「調子はどうだい」

「へっ、勇者ランキング2位の、ヨハンネス・ルーベンスか」


 ドルガーは眉をひそめ、このヨハンネスという少年勇者を見やり、舌打ちした。


 ちなみに勇者とは、将来、「魔王」を倒す可能性を持つ、才能ある魔物討伐とうばつ者のことを指す。


 この世界の救世主なのだ。


 世界に百五十三名しかいない。


 では、勇者になるにはどうしたら良いのか?


「全国勇者協会」が、才能のある剣士、魔法剣士、拳闘士、戦士に勇者の称号を与える。


 そうすると、その者はその日から勇者を名乗ることができるのだ。


 ……ただし、勇者の称号は、十億ルピーで買うこともできると言われている。


「調子は最悪だ!」


 ドルガーは叫んだ。


「今度、ダナンって野郎と試合をやる。だから、そいつをぶっ倒さなくちゃならねえ」

「ふーん?」


 このヨハンネスという少年は、十六歳。


 将来、「魔王バルジェフ・グダラ・バルモー」を打倒するのではないかと噂される、天才勇者であった。

 

 この少年の結成した魔物討伐とうばつ隊──「エクースの剣」は、魔物討伐とうばつランク「SS」だ。


「ドルガー君が最悪というのなら、本当に最悪なんだろうね!」

 

 ヨハンネスは手を叩きながら、笑った。


「で、そのダナンって人は、強いのかい?」


 ヨハンネスが聞くと、ドルガーは面白くなさそうに、ソファに寄りかかった。


「ダナンはよく分からねえヤツなんだよ。松葉杖をついているんだが」

「松葉杖?」


 ヨハンネスはピクリとドルガーを見た。


「どういうこと?」

「ああ? だからよぉ、右足を怪我してて、左腕で松葉杖をついてるんだよ。そいつが、学生魔法剣術大会の優勝者とかを倒しちまったんだから、わけがわからねえ。パトリシア・ワードナスがやられた」

 

 ドルガーの言葉に、ヨハンネスは少し身を起こして、ソファを座り直した。


「今年、学生魔法剣術大会で優勝した、パトリシアかい?」

「ああ。ランダース・ロベルタも倒している」

「ランダース! 魔法剣術世界ランキング四十一位か? 二人とも優秀な魔法剣士だぞ。どういうことなんだ? そのダナンという少年は、どういう剣術、戦術を使う?」

「うるせえ野郎だなあ。さっきも言っただろ。左手で松葉杖をついていて、片手──右手で剣を振るうんだよ。でも、どういうわけか、どんなヤツでも、ダナンに倒されちまう」

「か、片手だけで……学生魔法剣術大会優勝者を倒す……。信じられないよ」


 ヨハンネスは深く考えるように、眉間みけんを指でこすった。


 ドルガーは再び舌打ちする。


「ダナンの野郎……なんか卑怯ひきょうな方法でも使ってんじゃねぇのか」

(ドルガー君……。勇者の称号を、親の金で買った、君ほどじゃないだろうけどね)


 ヨハンネスはそう言おうとしたが、それは口をつぐんだ。


「しかしね。そのダナン君が片手で勝てるとしたら、まず、考えられるのは『スキル』が原因じゃないか?」

「スキル? 聞いたことはある。神に選ばれた者に備わった才能だろ、簡単にいえば。ダナンにそんなものがあるわけねえ」

「いや、本当は誰でも持っているのさ」


 ヨハンネスは言った。


「自分がスキルを持っていることに、気付かない人が多いだけでね」

「……よくわからんな。とにかく俺は来月、ダナンの野郎と試合するんだ。色々策略を練らなければならねえ」

「フフッ……。それならばドルガー君。君は、スキルを人工的に植え付けてもらうという手段があることを、知っているかい?」

「ど、どういうこった?」

「人間にスキルを人工的に植え付けるのは、魔法協会、錬金術師協会で『違法』とされている。しかし魔族が施術しじゅつするならば、法の外でスキルを植え付けられる。『闇のスキル』というものだがね」

「お、おい、あ、危ねぇだろ、それ……」

「ドルガー君。ダナン君に勝ちたいなら、魔族に会い、『闇のスキル』を植え付けてもらうべきだ。ダナン君に確実に勝てるし、もしかしたら最強の勇者にだってなれるかもしれないよ」


 最強の勇者! ドルガーはその言葉を聞き、ソファを座り直した。ヨハンネスの言っていることに興味が出てきたのだ。


 しかし、不安がある。


「だが、ま、魔族に会うって……。そんなことができるのか?」

「フフフッ」


 ヨハンネスは周囲を見回し、小声で言った。


「僕にまかせてくれれば、魔族に会えるよ。しかも魔王にね」

「えっ、お、お前? ま、ま、魔王と知り合いなのか? じょ、冗談だろ」


 ドルガーは目を丸くして、ヨハンネスを見た。


 ヨハンネスはクスクス笑った。


「君に勇気があるなら、魔王たちに『闇のスキル』を植え付けてもらうに行こうじゃないか。僕が案内するよ、ドルガー君」


 こいつ……正気か?


 ドルガーはヨハンネスという少年を見て、冷や汗をかいていた。

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