第23話 パメラ探偵とマリーさんの大屋敷①

 僕とアイリーンは、周囲に気を付けながら墓地をまっすぐ歩いた。


 歩いていくと墓地の奥に、大屋敷が建っているのが見えた。


 まるで城のような大屋敷だ。


 しかし、大屋敷の大きな鉄の扉は閉まっている。


「お、おっと」


 そのとき、僕は体のバランスを崩して転びそうになった。


 右足が動かない! そ、そうか。僕のユニークスキル、【大天使の治癒ちゆ】が切れたんだ。


「大丈夫?」


 アイリーンは僕の異変に気付き、すぐ僕を支えてくれた。そして、彼女は顔を赤らめながら言った。


「いつでも、私が君を支えるから……」

「あ、ありがとう」


 ふう、アイアンナイトとの戦闘で、愛用の松葉杖を無くさないで良かった。


 僕は松葉杖をついて、体勢を立て直した。


 さて、僕らが周囲を見回していると……。


『認識……ダナン・アンテルド。アイリーン・フェリクス……。門が開きます。お入りください』


 抑揚よくようのない声がした。


 そしてグワン、という重々しい金属音とともに、扉が自動的に開かれた。


「ダナン・アンテルド様、アイリーン・フェリクス様ですね」


 大屋敷の中から、若いスーツ姿の男性が出てきてこう言った。


「私はパメラ・エステラン様、マリー・エステラン様、ご姉妹の秘書、セバスチャンです。お二人があなたたちをお待ちですよ」

「パメラさんとマリーさんは、僕らが来ることを知っていたんですか?」

「ええ、ご存知ですよ。パメラ様は名探偵、マリー様は占い師ですからね。──さあ、どうぞ」


 セバスチャン氏に、大屋敷の中にある、一階の一室に案内された。


 その部屋には薬品、古い本の棚が所せましとある。


 中央には机があり、その奥に女性が座っていた。


「久しぶりね」


 女性が言った。マリーさんだ!


 僕がランゼルフ・ギルドにやってきてから、何ヶ月経っただろう? あれから色々なことがあった。


「マリー先生! なんでこんな屋敷にいるんですか?」


 アイリーンがマリーさんに、大声で聞いた。アイリーンはマリーさんお魔法の弟子だったそうだ。


「こんな恐ろしい街に住むなんて!」

「結界を張れば、静かで良い街なのよね。……アイリーンは相変わらず元気がいいわね。ダナン君も……あら、あなた、すごく強くなったわね。雰囲気で分かるわ。──さて……と、ご用件は色々と分かっているけど、一応、話したいことを話してごらんなさい」

「はい!」


 僕は口を開いた。


「僕を馬車で事故にあわせた者の、正体を知りたいんです。そして、僕にぎぬを着せた、とある写真がウソだということを、証明したいんです」

『では、私が証明してやるぞよ~!』


 その時! 部屋の中に、子どもの声が響いた?


『隣の部屋に来い! 私が名探偵のパメラ・エステランじゃ~! マリーよ、私の部屋に連れてこいっ!」


 な、何で、部屋中に子どもの声が響き渡っているんだ? どんな仕掛けだ? そもそも、パメラって人は、マリーさんの「姉」だったはずだ。


 まるで子どものような、幼い声だけど。それにしては高飛車な話し方だな。


「ウフフッ」


 マリーさんはふき出しそうになりながら、言った。


「じゃあ、姉に会いにいきましょう。ついてきて」




 マリーさんは、僕らを隣の部屋に連れていった。


「う、うわあ~……」


 アイリーンは声を上げた。な、何だ? この部屋は。


 それはとても大きな部屋だった。周囲は巨大水槽すいそうになっており、魚がたくさん泳いでいる。


 その部屋の中央に机があり、誰かが座っていた。


「ほうれ! 早くこっちゃこい! 待ちくたびれたわい」


 その誰かが声を張り上げた。子どもの声なのに、老婆のようなしゃべり方だ。


 その机の上には、巨大な透明な球体──水晶球すいしょうだまがあり、その水晶球すいしょうだまから導線がたくさん出ていた。


 その導線は、壁に設置された、本棚のような鉄の装置と繋がっている。


「ダナン・アンテルド! お前の事故の真実を、完全解明してやるわい」


 椅子には、三角帽を被った、幼いかわいい女の子がちょこんと座っていた。


「私はパメラ・エステラン。マリーの姉じゃ。ほりゃ、こっちゃこい!」


 女の子は僕の腕にがっしと組み付き、自分の机の前に僕を引っ張った。


「ほほう、おぬしがダナンか! かわいい男子が来たのぉ~!」

「ちょっと、パメラ姉さん! ダナンとアイリーンが困惑しているじゃないの」


 マリーさんはパメラさんに注意し、僕を見た。


「パメラ姉さんは、前世では百八十八歳まで生きたらしいのよ。だけど、神様にお願いして、記憶を保ちつつ、赤ちゃんに生まれ変わったの。転生ってヤツね」

「は、はあ? 前世? 転生?」


 僕は首をかしげたが、マリーさんの説明は続く。


「百八十八歳の知識、記憶を保ちつつ、十歳になったわけ。で、錬金術で錬成れんせいした薬を飲んで、十歳の体を保っているわ。正式な年齢としては、三十八歳だけど」

「よ、よけいなことを言うなっ、マリー! 化け物あつかいされるじゃろが~! 転生の話は秘密じゃ~」


 パメラさんは顔を真っ赤にして、座りつつ足をバタバタさせながら言った。


 マリーさんとパメラさんの言っている意味は、さっぱり分からん。


「そんなことより、ダナンよ! お主の馬車の事故の話だ」


 パメラさんは巨大水晶球すいしょうだまとつながった、文字板を操作し始めた。


「お前が事故にあった場所と、日時を教えてくれ。検索するからのう」

「えーっと、確か……。マルスタ地区の有名レストランがある交差点で……。レストランの名前は忘れちゃったなあ。……今年の四月……何日に事故があったんだっけ」


 僕は本当に忘れていた。しかし、アイリーンが助け舟を出してくれた。


「ダナンが事故にあったのは、マルスタ地区の有名レストラン、『スライバス』がある交差点よ。日時は今年の四月十九日。その日、ダナンは私の勤めていた病院に運び込まれました。だけど、それで何か分かるんですか?」

「この国は極秘で、『魔導監視装置まどうかんしそうち』というものを街中に取り付けておる。その数、1967個!」


 ま、魔導監視まどうかんし……装置?


 パメラさんは文字板を打ち込み、巨大水晶球すいしょうだまの横の装置から、写真を取り出した。写真が印刷できるらしい。


「これを見よ」

「え……? あっ……」


 僕は思わず声を上げた。


 誰かが馬車にはねられた瞬間が、右斜め上から撮影されている! つまり、事故の瞬間だ。


 その誰かとは……! この写真の中で、馬車にはねられているのは……!


 僕だ!

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