第12話 ダナン VS 気の強い美少女魔法剣士【ざまぁ回】

 僕の目の前には、ドルガーの刺客しかく、パトリシア・ワードナスという美少女魔法剣士がいる。


 学生魔法剣術大会優勝者で、強敵だ。えらく顔が美しい。


「外に出よう」


 僕は仕方なく提案した。


「道場の中じゃ、道場生が巻き込まれて危険だ」

「いいけど、本当にやるのかい? まあ、ドルガー君に頼まれて来たけどさ」


 パトリシアはクスクス笑って言った。


「君のような弱そうな少年と戦うのは、何だか気が引けるなあ」


 僕らは道場の外の、芝生広場に出た。


 ついに試合が始まる。パトリシアのことは、道場破りと解釈して良いのだ。だから、僕は彼女を降参させなければならない!


「では、木剣ぼっけんで勝負!」


 パトリシアは僕と向かい合った途端、跳躍ちょうやくした。


 ──そしてすぐに、木剣ぼっけんを上から振り下ろす!


 ガシイッ


 僕は木剣ぼっけんを横にして受ける。


 ──右足は動かない。【大天使の治癒ちゆ】は発動していないようだ。僕は左脇に、松葉杖を抱えている。だから、右手で戦わなければならない。


「アハハハハッ」


 パトリシアは笑い続ける。そして、攻撃の手は止まらない。


 ガッ、ガシッ、ガスッ


「まるで木に打ち込み練習をしているようだよ、ダナン君!」


 だが、僕は彼女の木剣ぼっけんを、すべて自分の木剣ぼっけんで受けることができた。


 道場生たちは心配そうに、僕とパトリシアを遠くから見ている。笑っているのは、デリックたちだ。……ドルガーもいつの間にか来ている。……あいつ!


「でりゃあああっ」


 パトリシアは素早く、横に払う。


 ガッ


 僕はまたしても、それを受けた。


「ダナン君、君は松葉杖をついている」


 パトリシアは首を横に振って言った。


「少しは手加減しないと、と思うが。どうも手加減できない性分でね」

「パトリシア、余計なお世話だ」

「心配して言ってるんだよ? フフフッ」


 パトリシアはニヤつきつつ──。


「たああっ」


 今度は素早く、木剣ぼっけんを突いてきた。


(ここだ!)


 ガリイッ


 僕はパトリシアの木剣ぼっけんに、僕の木剣ぼっけんをすべらせた。そして、パトリシアの木剣ぼっけんを左に打ち払うことに成功した。


 そしてそのまま──。


 上体を左に移動し、片手上段斬りだ!


 ヒュッ


「うっ、あ」


 パトリシアがうなった。


 僕の木剣ぼっけんが、パトリシアのほおをかすめたのだ。


「な、何だ、今の!」

「す、すげぇ! ダナン先生の技」

「見た? 木剣ぼっけんがヘビみたいな動きをしてた」


 道場生たちは歓声をあげる。


「な、なんだと」


 パトリシアは目を丸くして、僕を見た。


「『バインド』を使うとは!」

 

 そう──僕が放った技は、バインドと呼ばれる、高等技術だ。剣と剣が重なりあったとき、剣をすべらせ、そのまま攻撃に転じる。


 拳闘でいうと、カウンター攻撃と同等レベルの、高度な攻撃方法だ。


「……少年で、ここまであざやかなバインドを使用するとは。は、初めて見たぞ」


 パトリシアの目が、ギラリと光ったような気がした。


 パトリシアが木剣ぼっけんを下段に払う! 足狙いか?


 ガシイッ


 僕は間一髪、左に持った松葉杖で左足を防いだ。


「な、何と? 松葉杖で防ぐとは? そんなバカな」


 パトリシアが声を上げたとき──。


「ひ、卑怯ひきょうです! パトリシアさん」


 モニカが声を上げた。


「ダナン先生は、右足がマヒしていて、動かないんですよ! 狙ったのは左足とはいえ、足を狙うなんて!」

卑怯ひきょう?」


 パトリシアの顔はひきつっていた。


卑怯ひきょうが何だと? 私は公爵こうしゃく家の娘──負けるわけには──」


 パトリシアは飛び込み、再び木剣ぼっけんを突き出してきた!


「いかないのだ!」

(もらった!)


 僕はパトリシアの木剣ぼっけんを右に払い──そして、ぐるりと巻きつけるようにした。


「なっ?」


 パトリシアは声を上げた。


 ガッ


 そんな音とともに、パトリシアの木剣ぼっけんが彼女の手から離れ、宙を舞い──。


 ドッ


 芝生の上に、落ちた。


 僕は呆然とするパトリシアの首に、自分の木剣ぼっけんを当てがっていた。


 勝負あったか? これは僕の勝ちだ!


「……すげえ」

「ダナン先生が、パトリシアの木剣ぼっけんを巻き取ったんだ!」

「神技だ……」


 道場生たちが声を上げる。僕はパトリシアの木剣ぼっけんを、自分の木剣ぼっけんで巻き取った。そして彼女の手から、木剣ぼっけんを離れさせた。


 彼女の手には、武器はもうない。


「な……んだと」


 パトリシアは地面にひざまずいた。


「わ、私の剣が、私の手から離れてしまっただと? な、なんてことだ。こんなことはありえない」

「負けを認めるか?」

「くっ……。同年代の者に、完全に負けた。こ、こんなバカな!」


 パトリシアは僕を見上げ、キッとにらみつけた。ま、まるでおおかみのような鋭い目だ。


 そして叫んだ。


「ダナン君ッ!」

「う、うわっ!」


 怖っ! ん? 彼女のほおは真っ赤だ。


「い、いえ。ダナン先生と……お呼びして、よ、よろしいですか?」

「へ?」


 ガシッ


 彼女は僕の両手をつかんだ。


「で、できれば、あなたのお家に住まわせていただき、直弟子じきでしにしていただきたい!」

「は、はあああ?」

「お願いです! 食事も風呂きも私にお任せください!」

「ひええ! そんなお願いされても!」


 僕は松葉杖をつきながら逃げ出そうとしたが、パトリシアは僕の後ろから、ガッシと抱きつく!


「待て、逃げるか! それでも男か、ダナン先生! 私を弟子にしろ!」


 ど、どっちが勝者だか、わかりゃしないよ!


 道場生たちが、クスクス笑っている。


 僕は、この勝負に勝つことができた。


 だけど、ドルガーとデリックたちだけは、ワナワナ震えていたようだった。

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