第4話 その頃、勇者ドルガーは① 【勇者ドルガー視点】

 その頃、ダナンをいじめて魔物討伐とうばつ隊から追放した、勇者ドルガー・マックスは……。


 馬車の中にいた。


 ゲッドフォール草原を、ドルガーひきいる魔物討伐とうばつ隊、「ウルスの盾」を乗せた、ほろ付き馬車が走っている。


「ガハハハ!」


 ドルガーは客車内で叫んだ。


「ついに大貴族ドルガレス家から、魔物討伐とうばつの依頼が来たぜえ!」


 メンバーの戦士、バルドンも「やったな、ドルガー」と笑った。


「ようやく、ここまで来ましたか……」


 魔法使いのジョルジュ・リデーンも眼鏡をすり上げ、ニヤリと笑う。


 大貴族のドルガレス家は、世界最高の大金持ちの一つと言われる。このライリンクス王国の王族たちよりも、資産を持っていると噂されていた。


 一方、ドルガーの恋人、女魔法剣士のアイリーン・フェリクスはうかない顔で、黙ったままだ。


(ダナンはどうしているんだろう……。なぜか気になっちゃう)


「おい、何うかない顔してんだ、アイリーン!」


 ドルガーは大声で言った。


「大貴族からのご依頼だぞ。大金が入ってくるぜ!」

「あ、ああ……そうだね」


 アイリーンは、肩にかかった美しい髪の毛をはらった。ドルガーはいやらしい目で、目の前に座っているアイリーンを見た。


 アイリーンは、輝くように美しさだ……。


(ん?)


 そのとき、ドルガーは眉をひそめた。


(……勇者ドルガー・マックスさんの、【スキル・勇者のカリスマ】の有効期限が切れました。……【スキル・勇者の剣術】の有効期限が切れました。……【スキル・大商人の金運】の有効期限が切れそうです。……スキルの状態を戻すには、善行ぜんこうを積むことをお勧めします)


「なんだ?」


 ドルガーは周囲を見回した。頭の中に、何か声が響いたぞ?


 ……気のせいか。昨日、酒を飲みすぎたからな。


 気を取り直し、ドルガーは言った。


「アイリーン、さっさと結婚しちまおうぜ。今度、結婚式場を見に行こう」

「……気が早いよ……」


 ドルガーは、なめるようないやらしい目でアイリーンを見て、彼女の手をさわる。


 アイリーンはそれをふりほどいた。


「やめてよ、調子にのらないで」

「なんだぁ? てめぇ」


 ドルガーはアイリーンをにらみつけた。


「勇者の俺の命令にしたがって、俺のいいなりになっていればいいんだよ、お前なんか。で、金はいつ返してくれるんだ? アイリーン」


 アイリーンがドルガーと恋人関係になったのは、わけがある。


 アイリーンの家は貧乏で、三百万ルピーの借金があった。


 それをドルガーが、アイリーンに恩を売り、彼女を恋人にするため、支払ってやったのだ。ドルガーは十六歳だが、魔物討伐とうばつで金をめ込んでいたので、三百万ルピー用意するくらい、造作もないことだった。


 そしてドルガーは……。


「お前から、二百万ルピーの利子りしを取るから覚えとけ。つまり俺に、総額五百万ルピー払えよ」


 アイリーンにそう言い出した。


 悪徳金融きんゆう業者も、真っ青の利子りしだ。


 アイリーンはドルガーの作った書類にサインをしてしまったから、余計、始末が悪い。


「はあ……」


 アイリーンはため息をついた。


(もしダナンなら……。こんな卑怯ひきょうなことはしないだろうな)


 アイリーンはそう考えていた。




 さて、ドルガーたちは魔物討伐とうばつの依頼の拠点きょてんである、ランゼルフ地区に到着した。


 そして依頼主の大貴族が予約してくれた、高級な宿屋【龍王てい】に向かった。


 すると入り口で、金髪の少年がドルガーたちを出迎えた。


「よぉ! 久しぶりじゃねえか! デリック!」


 ドルガーは金髪少年に言った。この金髪少年は数時間前、ダナンに向かっていって成敗された、あの不良少年である。


 ドルガーはデリックに言った。


「ランゼルフ地区は、あんまり知らなくてよ。親戚しんせきのお前が、この辺を案内してくれるっていうから、助かるぜ。どうだ、魔法剣術の腕はみがいているか?」

「ああ……ドルガー……。よく来たな」

「ん? デリック、どうしたんだ?」

「実はよ……気に喰わねえ野郎がいるんだよ。すげぇムカつくぜ」


 デリックは舌打ちしながら言った。


「そいつ、たった俺と一歳しか違わないのに、メチャクチャ強くって……。魔法剣術道場でやられた」

「お、お前が? だってお前、この間、学生魔法剣術のライリンクス王国大会で四位になっただろう。……デリック、誰なんだ? お前を倒すヤツなんて」

「あ、ああ……。そいつは十六歳なんだ。左脇で一本、松葉杖をついていて……」

「ん? 松葉杖?」


 ドルガーは眉をひそめて、バルドンとジョルジュたちの顔を見た。


 な、何か嫌な予感がするぞ? 俺は、そいつを知っている気がする。


 ドルガーの予感は的中した。


「そいつの名前は、えーっと確か、ダナン・アンテルドってヤツで……」

「はあ?」


 ドルガーはデリックの言葉に、目を丸くした。


「ダ、ダナンだって?」


 十六歳。松葉杖。そして名前がダナン・アンテルド。


 ウソだろ……?


 ドルガーはアイリーンを見た。


「あのダナンだと思うわ」


 アイリーンがそう言ったので、ドルガーは再び眉をしかめた。


 間違いない。俺たちが追放した、ダナンだ!


 し、しかし、デリックは学生魔法剣術大会の四位だぞ?


 学生の魔法剣士では、相当、強い部類に入る。


 そんな魔法剣士を、俺らが追放したあのクソ弱い、しかも松葉杖のダナンが倒した?


(ど、どうなってやがるんだ? た、確かめなければ)


 ドルガーは、なぜか嫌な予感をひしひしと感じていた。

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