先輩のことがだ〜いすきなダウナー後輩彼女ちゃんは、なんでもお願いを聞いてくれる

Ab

第1話 罵倒して欲しい


「あ、いらっしゃい、先輩」


//SE スリッパの音

//SE 衣擦れの音


「ぎゅーーーっ……ん? どうしました?」


「なんでいきなりハグするのかって?」


「もう、そんなの決まってるじゃないですか」


//耳元に近づく


「私が、先輩のこと好きで好きでたまらない、一途で寂しがり屋な、先輩の彼女だからです」


//耳元から離れる


「……はい。確かに、昨日も一昨日も、夜まで一緒にいましたね」


「でも、私は寂しがり屋な女なので……先輩とは、一秒たりとも離れたくないんです」


//耳元に近づく


「先輩は、彼氏がいないとダメダメになっちゃうような彼女は嫌いですか?」


//耳元から離れる


「そんなことない? ……ふふっ、なら良かったです」


「……先輩、大好きです」


「ぎゅーーーーっ」


「…………」//満足そうな吐息


//離れる


「ずっと玄関にいてもしょうがないですよね」


「リビングに行きましょうか」


「お父さんもお母さんも、明日の夜まで仕事で帰ってきませんから」


「私と先輩で」


「たっくさん、恋人らしいこと、しましょうね」


//SE スリッパの音

//SE ドアを開ける音

//SE ドアを閉める音


「……なんて、言ってみたはいいものの」


「具体的には何をしましょうか」


「先輩は今日、私にどうして欲しいとか、ありますか?」


「何を楽しみに私に会いに来てくれた……とか」


「……え? 一緒にいるだけで……満足?」


「も、もう、そういうのはいいですから」//嬉しそうに


「して欲しいこと、ありませんか?」


「……ふむふむ…………え」


「先輩、正気ですか?」


「こんなに先輩のことが大好きな後輩の彼女に、先輩のこと……罵倒しろって言うんですか」


「……」//悩ましげなため息


「先輩にそういう趣味があるのは、まあ、なんとなく知っていましたけど」


「本当に、私に罵倒されるので喜んでくれますか?」


「癒されて、くれますか?」


「……そうですか」


「……なら、いいですよ。先輩の望み通り、今から先輩のこと、罵倒してあげます」


「じゃあ、ほら……荷物そこに置いて、ソファに腰掛けてください」


//SE スリッパの音

//SE ソファが軋む音


「隣、失礼しますね」


//SE ソファが軋む音(小さめ)


「まったく……一途な後輩彼女の家に来て、何をしたいかと思えば、私に罵倒されたいだなんて」


//耳元に近づく


「とんだ変態さんですね……先輩は」


「こんなお願い、私以外の女の子だったら絶対に引き受けてくれませんよ」


「……ねえ、『ありがとう』は?」


「『お願い聞いてくれてありがとうございます』って、ちゃんと言って?」


「……はい。どういたしまして」


「ちゃんとありがとうが言えて、偉いですよ、先輩」


「…………いえ、違いますね」


「私が注意するまでありがとうも言えないなんて、先輩は本当にダメな人です」


「私の親切を、当たり前のものだって思ってるんじゃないですか?」


「……思ってない?」


「じゃあ、次は自分から言えますよね?」


「……はい。偉いですよ、先輩」


「…………あ」


//耳元から離れる


「……あの、私、全然上手にできてないですよね」


「さっきから、無意識に先輩のことを褒めようとしてしまって」


「罵倒して欲しいってお願いなのに……」


「だ、だって、先輩みたいなかっこいい彼氏に、悪口だなんて思いつきませんよ」


//SE 手を握る音


「手だって、こんなにあったかくて、優しくて」


「たしかにちょっとだけ、積極性には欠けますけど」


「でも、そんな先輩も、私は大好きですから」


「こうやって、手を握り返してくれるところも大好きです」


「……」


「……先輩に対するちょっとした不満、ですか?」


「うーん」


「まあ、どうでもいいようなことなら、ないわけじゃないですけど」


「それを肥大化させて言えばいいんですか?」


「……わかりました。やってみます」


「……ふふっ。はい、耳元で囁いて欲しいんですよね」


「わかってますよ」


//耳元に近づく


「本当にこれ、好きですよね、先輩」


「そんなに心地良いんですか?」


「私が、いい声だから? ……もう、そういうこと言うからすぐに罵倒できないんですよ」


「褒めるのは、これが終わってからにしてください」


「それじゃあ、始めますね」

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