第19話 ざまあヒロインと悪事Ⅲ

 私が曇天の夜空に向かって怒りを露わにしたその時。


「居たぞ!」

「囲め!」

「逃がすな!」


 にわかに公園が騒がしくなった。

 ハッと振り向けば、入口の方から、男たちの集団が向かってくる……!?


「こいつか?」


「ああ。この腹の立つ顔、間違いない」


 なんて驚いている間にも、私はそいつらに囲まれてしまった。

 総勢20余名。

 オタクっぽい連中が1割。

 私のパパくらいの歳のサラリーマンっぽいのが2割。

 残りはまあまあオシャレなイケメンと、パリピだった。


 リーダーらしき派手な蛍光色のシャツを着た頭の悪そうな男が私の前に歩み出る。


「なによアンタたち!?

 いっとくけど勧誘ならお断りよ!

 モデルなんてするつもりないんだから!

 アイドルデビューもよ!?」


「は!?

 何言ってやがんだコイツ!?


「頭イカれてんじゃね?」


 私の発言に、リーダーらしき蛍光色の男と近場に居た韓国系が嘲笑う。


「じゃ……じゃあなんだってのよ!?」


「身に覚えあんだろ?

 鎌瀬麗子さんよ!」


 え。

 なんで私の名前知って……!?


「俺たちのるなさんの評判落とすような事しやがって!」

「このままじゃ許しておけねえ!」


 俺たちのるなさん……?

 ってことは……!


「そうか!

 アンタら、雪村の取り巻きね!?

 アイツに言われて私に報復しに来たのね!?

 自分のファンを使うなんてクズ中のクズの考えだわ!!」


 私はズバリ人差し指を突きつけて言った。

 すると、その場に居た男たち全員が『コイツ何言ってんだ?』って顔で私を見てくる。


「あ? るなさんがそんな事するわけないだろ!」


「俺らが勝手にキレてやってんだよ!」


「てめえのせいで、るなさん昨日から大変なんだからな!

 仕事が幾つか吹っ飛んだかもしれねえんだ!」


「るなさんのマネージャーは損害賠償だって考えてる!」


「そんなの!?

 私だって大変だったわよ!?」


 パパには寮追い出されるし、内木には裏切られるし!


「知らねえよ! てめえの事情なんざ!」

「よくも俺たちのるなさんを……!」


 それだけ言うと、奴らは輪を縮めるようにして私に迫ってきた。


「わ、私をどうするつもり!?」


「自分のやったことを反省した証として、るなさんに謝罪してもらう。

 だが普通に謝罪するだけじゃ、俺たちの腹が収まらない」


 言って、リーダーらしき蛍光色のシャツの男が、自分のスマホを突き出す。


「この場で裸で土下座するんだ。

 その上で、心から申し訳なかったって謝罪するなら、この場はひとまず収めてやる」


 は、裸ァ!?

 こいつら何言い出すのよ!?


「そ、そんなのムリに決まってるじゃない!?

 それに、アンタらが許したって雪村が許すと決まったわけじゃ……!」


「もちろんそうだ。

 これは俺たちファンとお前との話だ。

 るなさんはまた別。

 そっちはそっちでちゃんと謝れ」


「そんなの謝り損じゃないの!?」


 私がハッキリ言うと、周りを取り囲んでいた男どもがざわつく。


「おい。謝り損とか言ってるぜコイツ!!」


「ぜんっぜん反省してねえ!!」


「リーダー! こんな奴、さっさとやっちまおうぜ!!」


「ああ!

 それと言っとくが、俺たちはお前の裸になんか1ミリも興味ねえからな。

 裸を撮るのは、お前が二度とるなさんに酷い事をしないようにするためだ。

 今後お前が何かした時には、土下座動画をばら撒く」


「な、なにそれ脅迫のつもり!?

 弁護士雇って訴えるわよ!!」


「うるせえクズ女!

 るなさんの痛みを思いしれ!!!」


 一人の男がそう叫んだかと思うと、私に迫ってきた。

 咄嗟に逃げ出そうとしたが、目の前に居た別の男に両肩を掴まれる。

 抵抗しようとしたが、2人がかりで公園の地面に這いつくばらされる。


「やっ……!? やめなさいよおおおおおお!!?!?!」


 私は叫ぶ。


 イヤアアアアアアア!?

 このままじゃレ〇プされるうううううッ!?


「内木助けてえええええええ!!!」


「うるせえぞこのモブ女!

 ブスのくせにるなさんに迷惑かけてんじゃねえ!!」


「ぶべえっ!?」


 私は頭をゴツンと叩かれた。

 衝撃で口の中を切ってしまう。

 その後も私は何度も後ろから殴られた。

 砂もじゃりじゃり入ってくる。


「うぎぐ……ッ!?

 ぐっぞおおおおおおお!?!?

 うっさいのはそっちでしょうがこのブ男!!

 私のどこがモブでブスなのよ!

 私は鎌瀬よ!

 鎌瀬麗子!!!

 日本が世界に誇る圧倒的ハイスペ美少女なの!!

 この完璧な顔が見えないの!?」


 私は涙目で叫んだ。

 殴られた痛みなんかよりも、こんなカスどもにブス扱いされている方が1兆倍ムカつく。


「おまえが美少女!? 笑わせる!!」

「鏡見たことあんのかよ!!」

「お前とるなさんとじゃ月とすっぽんにもならねえし!」


 男たちが私を嘲る。

 そして、スマホで私の写真を撮ってきた。


「現実を見ろや!」


 その写真を画面で見させられる。


「……ッ!?」


 そこには地面に這いつくばり、全身泥まみれになった私の姿がある。


 眉も描かずリップも塗らず、ベースすら整えてない顔面。

 そのせいで、普段私が保っている優雅な感じが全く出ていない。

 まるで水商売で自分の青春を売りつくしたおばさんみたいな顔だった。

 顔だけじゃなく肌も酷い。

 あんまり見ないようにしていたのだが、最近の雪村たち関連のストレスのせいで大分荒れていた。

 前はシミ一つない完璧な肌だった所に、湿疹とかブツブツができている。


 その余りにおぞましい姿に、私の体が芯から震え出す。


「イヤアアアアアアアアアッ!!?

 こんなの私じゃない!!!

 きっとブスになるアプリとか使ってるんでしょ!!?

 そうよそうに決まってるッ!!!」


 私は雪村のように煌びやかで、明星院のように端正で、小金井のように明るく優しい女の子なの!!!

 こんなの決して私じゃない!!!


「アプリ? んなもん使う訳ねえだろ!」

「どんだけ自分の事カワイイとおもってんだコイツ!」

「もういい! 脱がしちまえ!!!」


 リーダーの指示を受けて、一人の男が私のジャージのジッパーに手を伸ばしてくる!?


「イヤアアアアアアッ!!!」


 もはや抵抗するとかそういう考えすらなかった。

 とにかくその場に居たくない一心で、私は体をジタバタさせる。


 すると偶然私の後頭部が、私の肩を押さえている男のアゴに思いっきりぶつかる。


「ぐおおっ!?」


 かなり痛かったらしい。

 男は私から手を離した。

 その隙に私は立ち上がって駆け出す。


 私を囲う男たちの輪には、ちょうど一か所だけ空きがあった。

 それは、今私を押さえつけていた男が居たスペース。

 そこを全速力で駆け抜ける。


「しまった逃げたぞ!!?」

「待て!!!」


 背後から迫る男たちの声と足音を振り切るように私は走った。

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