第13話 ざまあヒロインとSNS炎上

 SNSでの悪い噂の拡散は、正直リスクが付きまとう。

 もし万が一私が犯人であると内木に知られれば、100パーセント嫌われてしまうだろう。

 それはめちゃくちゃ怖い。

 だけど。

 リスクなしであの3人を追っ払うことは、もはや不可能に思えた。

 このままあの3人を放置しておけば、いずれ誰かが内木のハートを射止めてしまうだろう。

 そんなのは絶対に許せない……!!


「……もう、この手段しかないわね……!」


 私はスマホを取り出すと、SNSで三人の悪い噂を流すことに決めた。

 内容は次の通り。

 雪村は『ファンと付き合っている』。

 有名インスタグラマーが異性のファンと付き合ってるのはよくある話だ。

 それを天真爛漫な雪村がやっていたと知れば、ファンの間で暴動が起こるだろう。

 内木も雪村のことを嫌いになるに違いない。


 明星院は……『パパ活』とかどうかしら。

 脳筋だけあっていい体してるし。

 正直イメージしづらいから、明星院を知ってる人たちは信じないかもしれないけれど、明星院の写真だけ見た人たちはたぶん食いつく。

 そこから火が着く可能性は充分にあるわ。

 上手くいけば明星院の爽やかなイメージを完全に崩せるかも。


 そして小金井。

 コイツが一番難しい。

 なぜなら見た目も聖人で中身も聖人過ぎるから。

 小金井に対してパパ活とか水商売やってるなんて言っても、恐らく誰も信じないだろう。

 本人をこき下ろすのは難しいので『パパがコネで裏口入学させた』ことにするとか。

 そうね。

 これなら信じる奴もいるだろう。

『父親が小金井のためにやった』なら信ぴょう性ある。

 それに小金井の父親には個人的に恨みもあるし。

 私のパパをコケにしやがったから。

 天罰てきめんってところよ!


 よし……!

 取りあえず流す噂は決まったわね。

 後は家のパソコンを使ってウソの写真を作ったり、短い動画なんかも一緒に上げられるといいけど……。


 そう考えて、また内木たちを見る。

 雪村たち3人は、競うように内木に話しかけていた。


 そうか。

 普通にこのまま隠し撮りするのもいいわね。

 内木に対するアイツらの表情、めちゃくちゃ柔らかいから。

 美味い角度で撮れば、もう完全に恋人って感じ。

 内木だけ加工すればそのまま使えそうだわ。


 私は早速隠し撮りをし始める。


 この動画素材を加工して。

 それっぽいのができたら、さっそくツイッターとかユーチューブでも拡散しよう。


 上手くいけば、明日には炎上して、雪村たちは学校には来れなくなるかもしれない。

 退学だってあり得るわね。

 となれば、内木は私のもの……!


 ぐふふ。

 今後どうなるか、楽しみね……!




 ◆




「……んぅ……むにゃむにゃ内木ぃ……ぶっころすわよぅ………………」


 ん……?


 翌朝目覚めると、ベッドに朝日が燦々と差し込んでいた。

 かなり眩しい。


 この眩しさは、昨日殆ど徹夜しちゃったからかしらね……!

 だいぶ気怠い……!


 私は暫く布団の中でまどろみ、10分ほどかけて、ようやくベッドから起き上がる。


 昨日帰宅してからすぐに取りかかった動画加工だったが、思ったより大変だった。

 夜の時間では終わらず、明け方までなんども作り直して、漸く3人分の動画を拡散するに至ったのだ。


 だけどいいわ。

 中々それっぽい動画が作れたもの。

 これで雪村たちさえ被害に遭ってくれれば。


「ところで今何時……って!?」


 スマホの時計を見た瞬間、私の時間が止まった。

 現在時刻は昼の11時30分。

 朝日だと思ったのは昼の太陽だったのだ。


 ウソ!?

 完全に遅刻じゃない!?

 もう午前の授業が終わっちゃう!?


 私は慌ててベッドから飛び起き、ベッド下に落ちていた愛用のウッチーを踏ん付けて洗面台へと駆け込んだ。

 秒速マッハで歯磨きを終えると、カフェインやテアニン、ロディオラ(肉体疲労に利くハーブ)、アシュワガンダ(精神疲労に利く)といったサプリを口に放り込んで、朝の日課である筋トレをし始める。

 例え遅刻していようがモーニングルーティーンだけは変えてはならない。

 なぜならこれが私の勝利の秘訣だから。

 ただし時間がヤバいので、軽い奴を1種目1セットだけやっておきましょ。


 今日は下半身の日なのでワイドスクワット(足を大きく開くタイプのスクワットで、太ももの前の筋肉が一番鍛えられる)をする。


 でも、楽しみね!

 遅刻はしちゃったけれど、もしかしたら工作の効果が出ているかもしれないし!

 雪村たちが学校に来れなくなれば最高!

 それでなくても、内木が雪村たちにドン引きさえしてくれれば、それで奴らと内木の恋路は終わり。

 内木は私のものになる!

 ああん……ッ!

 はやく雪村たちの苦しむ顔が見たぁい♡


 スクワットしながら、そんな事を考える。

 そして汗を流すために、浴室へと向かった。

 服を脱ぎ浴室に飛び込んで、冷水シャワーを浴びる。


「グッヒヒィン♡

 グッヒヒン♡

 グッ♡

 ヒッ♡

 ホアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!!!!!」


 私はニッコニコの笑顔で冷水を浴びまくった。

 もう冷たすぎて小ジャンプしまくっている。


 私は冷水シャワーが死ぬほど嫌いだった。

 この肌に突き刺さるような感じが、1000回浴びても1ミリも慣れない。

 だけど今日だけは滅茶苦茶に気持ち良かった。

 なぜなら私が完全勝利する日だから。


 内木が私のものになるなんて、これ以上に嬉しいことなどないッ!!!!




 ◆




 30分後、私は学校の廊下を歩いていた。

 校舎は既に賑やかだ。

 もう昼休みが始まっているのだろう。


 フフ……!

 いつもなら遅刻をしたらちょっぴり気まずいんだけど、今日に限ってはゼンゼンそんな感じしないわね。

 なぜなら今日の私は、雪村達を学校から追放するという大仕事を終えているから。


「重役出勤ってこんな感じかしらね……!」


 誇らしくなった私は、昼下がりの廊下の風を肩で切って歩いていった。

 あちこちで群れを作って昼食を食べているモブどもを見下しつつ教室へと向かう。

 そして教室のドアを開けるなり、そのドアに背をもたれて、


「内木!

 どうせ今日も一人でボッチメシしてるんでしょ!?

 まったく情けないわね!!

 可哀想すぎるだからこの私が昼ごはん付き合ってあげるわ!!

 感謝しなさい!!」


 どうせボッチメシしてるであろう、内木に誘いをかけてやった。


 フ……!

 私もありがたく内木を頂戴する!!


 すると、


「アッハッ♡

 内めろそれヤバすぎでしょ!!!!?

 アハハハハハハハハハハハ!!!!」


 耳障りな女の笑い声が聞こえてくる!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る