第6話 ざまあヒロインとダイエットⅡ


「実はアタシ、内ぴのこと大好きなんだ。

 それで、できれば付き合いたいって思ってるんだけど。

 鎌ッペって内ぴの幼馴染なんでしょ?

 手伝ってくれないかな」


 ……。

 はああああああああああ!?!?!?


 雪村の言葉が信じられなかった。

 衝撃で全身硬直する!


 内木の良さに気付いている女なんて私以外いない。

 そう思っていたからこその不意打ちだった。


 う、内木が好きだと……!?

 ばかやろうふざけんな!

 内木は私のだ!!


 そう叫びたい気持ちを押さえつつ、


「え……!

 でもホラ内木くんはさ、ダサいし陰キャだし。

 雪村さんとじゃ、正直釣り合わないと思うんだけど」


 咄嗟に内木をディスる。

 雪村の中での、内木の株を下げようとしたのだ。


 ちなみに割と本音ではある。

 私自身、今の内木が私と付き合えるレベルだとは思っていない。

 アイツはいつも猫背でクラスメートとも殆ど話さないし、休み時間もマンガ読んだり描いたりしてるだけの根暗な陰キャ。

 それでも私が内木を好んでいるのは、奴の潜在的なスペックを買ってのこと。

 今はダサくても将来性がある。

 なおかつこの優秀な私が陰ながら妻として支えるんだから、成功するのは目に見えていた。


 だが、そんな内木の素晴らしさを知っているのは私だけでいい。

 だからなんとか内木の株を下げてもらって、幻滅してもらおう。

 そう思って話を続ける。


「しかもアイツ描いてるマンガって結構センシティブっていうか、まあぶっちゃけ下品で。

 女の子がすぐエッチな目にあったりするし、それに陰キャみたいな男がモテる理由も解らないのよね。

 だって、内気で根暗で陰キャな男子のことを好きになる女子なんて、リアルに居る訳ないじゃん?

 もう男の欲望全開過ぎて正直ドン引きっていうか……」


 私がそこまで言うと、急に雪村が私の手を掴んできた。

 私を見るその目は輝いている。


「だよね!?

 アタシ内ぴのマンガに出てくる女の子が大好きなの!!

 主人公に恋しちゃって、一生懸命になっちゃうところとかもうめっちゃカワイくて好きで♡

 わかる~~~ってなって、テンションめっちゃアガっちゃって!

 あと努力家だったりだとか、計画性があるところとかもめっちゃ好きで!

 アタシいつもその場のノリで行動しちゃうからさ~!

 ちゃんと考えて行動できる人ってすっごいカッコイイんだよね~!!」


 雪村は嬉しそうに語る。


 コイツ人の話聞いてねえ!?

 つうか、意外と内木の内面まで見てやがる……!?

 本気なんだ……!


「でも急にコクったらフラれるし。

 内ぴにだけは嫌われたくないからさ~。

 だから鎌っぺ、お願い!

 手伝って!」


 雪村が私に向かって手を合わせてお願いしてくる。


 マズい。

 内木はただのクソダサ陰キャ。

 こんなアニメみたいなプロポーションの美少女からコクられたら、一瞬で堕ちるに決まっている!

 なんとかしないと……!

 でも、どうすれば……!?

 ……。

 そうだ!

 むしろこの状況を利用すれば!!


「内木って、ふくよかな人が好きらしいよ♡」


 私は言った。

 ウソを教えてやるのだ。

 でも半分はホント。

 内木は胸とお尻に関してはふくよかな人が好き。


「だからドーナツもっと食えば?

 ケーキとかドカ食いしまくって、ブクブク太るといいよ」


「それマジ!?

 だったらドーナツもっと買ってこよ!!

 アタシ一生懸命食べないと太れないし!

 だったら皆も呼んでドーナツパーティしよっかな!

 鎌ッペもよかったら……ってそっかダイエット中なんだっけ!」


「ええ。

 私はけっこうよ」


「鎌っぺホントにありがとね!

 今度お礼になんか奢るね!

 そんじゃ!」


 言って、スマホ片手にドーナツショップへと戻っていく。

 友達を大勢誘って、これからドカ食いしまくるのだろう。


 デュフッ……!

 デュハハハハハハハハハッ!!

 キサマも豚の角煮になるがいい!

 そして内木から嫌われろ!!

 二度と私達の間に入ろうとするな!!

 そうだ、ついでに写真撮ってやろうか!

 有名インスタグラマーの醜くなった姿なんてアップしたら、さぞかしPV数稼げるだろうしな!

 ぐはははははは!!!


 私は満面の笑みを浮かべて家へと帰っていった。




 ◆




 2週間後。

 授業が終わった休み時間。


「内ぴ~!」


 雪村が席を立ち、内木の席へと向かう。

 途端にクラスメート(ほぼ100パーセント男子たち)が一斉に雪村を見る。

 気付けば教室の入口にも男子たちが集まっていた。

 上級生下級生部外者そして先生まで。

 全員の視線が向かう先は、雪村のボディ。


 奴の体は角煮にはならなかった。

 むしろ胸と尻だけがデカくなっている。

 しかも前よりも肌の色がキレイっていうか、艶が出てきたのだ。

 前はまだジュニアアイドル感が残っていたけれど、今はもう成熟したグラビアアイドルって感じだった。

 体の下品さにおいては世界トップクラスの明星院にも迫る程だ。


 雪村を見ただけで股間を押さえてうずくまる男子が続出。

 内木も当然直視などできない。

 めっちゃ顔が赤くなってる。


 うっうっ内木の奴完全に鼻の下伸ばしてやがるうううう!?

 私が幾ら体を寄せても、鼻息一つ荒げたことないくせに!!!


 なんて私が悔しがっていると、内木が急に席を立って教室を後にした。

 たぶんトイレにでも行くんだろう。

 そんな内木の背中を鬼の形相で睨みつける。


 すると今度は雪村が私の方に近寄ってきた。

 雪村は満面の笑みを浮かべて、


「も~鎌っぺの言った通りだった!

 内ぴの最近アタシを見る目がメロメロでさ~!

 もう効果抜群って感じ!?

 しかもそれだけじゃなくって、インスタの方もめちゃくちゃ評判いいんだ。

 特に男の人からめっちゃ好評なの!

 全部鎌瀬さんのおかげだよ!

 ありがとう!」


 言って、私の手を握ってブンブン振る。


「あ、あら……!?

 それはよかった、わね……!」


 私は今にもブチギレそうだった。


 負けヒロインにだけはなりたくない!!!


 その日から二週間。

 日常的に摂っているオメガ3脂肪酸の量を増やし、更には筋トレで形を整えて、キレイな胸とお尻を作ろうとした。

 だが結果はバストヒップサイズ共に変化ナシ。

 むしろウエストサイズが0・5センチ増えてしまった。

 たぶんストレスのせいだ。


 なんで!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る