ざまぁみろ
「あのな、アドルファス」
本日、何度目かの頭痛をこらえながら、ルードヴィヒ王弟殿下が口を開く。
「君、ほんとに気をつけなさいよ。さっきも注意したけれど、物事は伝え方が重要だからね!」
「お言葉ですが、叔父上――『目は口ほどにものを言う』――あれですよ」
「何が『あれ』なんだ」
「僕の目を見てもらえれば、ディーナに対する好意は明白でしょう? 上辺の言葉なんて、さして意味を持たない」
「え……なんなの君、羞恥心は持ってないの? 元々ないの? それともどこかでなくしたの? どっち? 小さい時から勉強させすぎて、情緒がおかしくなっちゃったのかな」
ふたりがやり取りしているのを聞き、私は照れて顔が熱くなってきた。
ええ、本当に……アドルファス王太子殿下って羞恥心がないのかしら?
チラリと彼を見ると、アドルファス王太子殿下は端正な顔で考え込んでいる。
「情緒は正常だと思いますよ。だってディーナと一緒にいると、ちゃんと心が揺れますし。そうだ……僕はディーナの話し方も好きだな。テンポが合う気がする」
「あ、ああ、うん……」
「この短時間で、彼女に対する好意は、叔父上に対する好意を超えました」
話のついで、みたいな感じで、アドルファス王太子殿下がとんでもないことを言い出した。
ルードヴィヒ王弟殿下がぎょっとして、
「え、嘘だろう?」
素っ頓狂な声を出した。驚きすぎて、若干前のめりになっている。
「待て待て待て――君と私、何年の付き合いだい? このたった数時間で、私はディーナさんに負けたっていうの?」
「ええ、残念ながら」
「ひどくないか?」
「ひどくないです――妬かない、妬かない」
「いや、絶対ひどいよ。いくらなんでも薄情すぎる」
「ごめんなさい……もうあなたは過去の人です」
聞いていた私は『確かにひどいな』と思った。なんだかルードヴィヒ王弟殿下が可哀想になってきた。
アドルファス王太子殿下が美しい顔をこちらに向ける。
「それでディーナはどう?」
「え? どうって……」
「僕への愛情が、家族への愛情を超えた?」
ええ? 私は呆気に取られた。
呆気に取られ……そして正直に答えた。
「あの、いえ……まだ父母と弟のほうが好きですね」
ガーン――……ショックを受けた様子で固まるアドルファス王太子殿下。
それを見て、父ご乱心。
「当たり前だろ! たった数時間で、なんで私に勝てると思ったんだ、図々しすぎるだろ」
「お、お父様、言葉遣い」
「ざまぁみろ」
「お、お父様!」
それは言っちゃだめ!
ブフゥ……! 盛大に吹き出す音がして、見たら秘書のユリアが円卓に突っ伏し、なぜか悶絶している。
泣き上戸(じょうご)で、笑い上戸なのだろうか……と私は思った。
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