婚約破棄されて修道院へ行けと言われた!  ~ 王家の跡目争いで、生き残ったのは・・・ ~

甘い秋空

一話完結 王家の跡目争いで、生き残ったのは



「俺を突き飛ばす女とは、婚約破棄だ! 修道院へ行け、ギンチヨ」

 第一王子が、声を荒げます。



 国王の再婚を祝うパーティー会場です。

 私は、王弟陛下の養女、ギンチヨです。銀髪、青緑の瞳の令嬢です。


 第一王子は、婚約者である私をエスコートし、赤ジュウタンを歩いていましたが、お酒臭く、足元がふらつき、自分でつまづいてしまいました。


 恥ずかしかったのか、彼は、私に責任を転嫁してきました。



「わかりました。修道院へ行きます」

 だって、私は修道院の院長を務めておりますもの。


 私は、王弟陛下の親戚の中から選ばれ、養女にされ、第二王子の婚約者となるようにと、厳しい教育の下、育てられてきました。


 第一王子は、貴族たちから、王としての資質が疑われ、婚約者が決まらない状態が続いていました。


 そこで、国王の気まぐれも加わり、私が婚約者にされてしまったわけです。



 第二王子が、私を追いかけて来てくれました。


「ギンチヨ嬢、必ず迎えに行くから」

 彼は、私に誓ってくれました。


「ありがとうございます、クロガネ様」

 以前と変わらない彼に、ホッとします。



「第一王子様は、新しい王妃様が決まってから、様子がおかしいです」

 新しい王妃が、国王と再婚することに、反感を持っているようです。


「そうだな、毎晩、強い酒を飲んでいるようだ」

 第二王子も、アルコールへの依存を心配しているようです。



「貴族の皆さんは、浮気性の国王や第一王子様に呆れて、王弟陛下か第二王子様が国王になることを望んでいます」


 小さな声で伝えます。


「ここでは、滅多なことは口にするな」

 彼は、周囲を見渡します。



「でも、あの王妃の行なったことを、私は許せません」


 彼の実母である前王妃は、国王の再婚相手である前王妃の妹に、毒殺された疑いが強いのです。


「証拠がない。わかっているよ、自分の身は、自分で護るから」


 自分で子供を産んで国王にしようと、次は、邪魔者である彼を消しにくると考えられます。



「第一王子様の浮気相手は、あの王妃なのでしょ?」

 私は、小声ながら、怒りを込めて言います。


「それも証拠はない。国王の浮気相手も、あの女だと思っているが、今はどうしようもない」


 彼も、小声ながら、怒りをあらわにします。



    ◇



 修道院での生活が始まって、まだ月も変わらない時です。


 王宮から早馬が来ました。


「ギンチヨ様、王弟陛下が急逝しました」


「お父様が?!」

 信じられません、あの、お元気だったお父様が……



    ◇



 父である王弟陛下は、病気だったとして、なぜか、質素に葬儀が執り行われました。


 兄の話では「第一王子が、王妃と王弟陛下が浮気していると幻覚に侵され、後ろから刺した」そうです。


 父は、浮気をするような人ではありません。



 第二王子のクロガネ様が、優しく慰めてくれます。

 私が、婚約者が父を刺したことに心を痛め、川に身を投じようとしたのを、諭してくれたのも彼でした。



    ◇



 修道院へ戻り、喪に服していると、王宮から早馬が来ました。

 嫌な予感がします。


「第一王子様と、兄が決闘をするのですか?」


 兄は、そんな短絡的な性格ではありません。

 王妃から、第一王子を消すように、そそのかされたのだと思います。


「第二王子様は、止めようとして、幽閉されたのですか!」


 彼も、動きを封じられました。王妃の策略に間違いないと思います。



    ◇



 王宮に着き、試合会場へ急ぎます。


 途中で、父の友人たちに会いました。


「どうか、第二王子様を救って下さい。彼は、私の全てです」

 頭を下げ、涙がこぼれ落ちます。



 試合会場は、大ホールでした。


 国王と王妃を最前列にし、多くの貴族が周囲を囲んでいます。


 兄と第一王子、双方とも傷ついています。

 二人とも、剣にキレが、ありません。


 まさか、あの剣には、毒が塗られているのでは?



 中止を求めようと、国王を見ます。


 しかし、国王は、椅子に座り、うつむいたまま、全く動きません。手前には、第一王子の酒の瓶があります。


 まさか、邪魔な第一王子に飲ませようと王妃が用意した毒入りのお酒を、間違って飲んだのですか?



「「おー!」」

 会場が湧きました。


 兄の剣が、王子の腕を刺しています。

 しかし、第一王子の剣は、兄の腹を刺しています。


「お兄さま!」

 私は、兄へ駆け寄ります。


「悪いのは、王妃だぜ……」

 兄が、最後に、第一王子へ告げました。



 私が泣きながら、兄の顔を綺麗にしていると、「「あぁ!」」と会場に叫び声があがりました!


 振り向くと、第一王子が王妃を刺しています。

 二人は、重なり合って、倒れました。



「試合を止めろ!」

 第二王子と父の友人たちが会場に入って来ました。


「遅かったか……」

 誰もが、呆然と立ちすくんでいます。



   ◇



 あれから1年経ちました。


 修道院の院長のお仕事は後輩にお願いし、私は、クロガネ様の右腕として、忙しく働いています。

 彼の婚約者となるようにと、厳しくされた教育が、やっと、役立ったと思います。



 第二王子と私、家族が誰もいなくなった二人の結婚式は、質素に行われました。

 お互いに、唯一無二の家族となり、心の支えになっています。



 今日は、クロガネ様の、王位就任の戴冠式です。


「ギンチヨ王妃、王冠とドレスの準備ができました」

 侍女さんが、声をかけてくれました。


 今日、私は、彼の母が残した王冠とドレスを、身に着けます。




━━ fin ━━



あとがき

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