第三部

彼が捕まって3日後、どのチャンネルでも、テロのニュースはやってなかった。

世間の関心が別のことに向いてしまったというわけではない。ただ単に、テロが起きなかったというだけである。




病原体の製作過程で、自分でも気づかぬうちに私は少し手を加えていた。いや、正確には少し涙を加えていたのである。愛の涙を一滴、垂らしたのだ。私は自分の過ちを理解し、彼を憎むのではなく愛した。私は彼であり、彼もまた私なのだから。それは次第に伝播していき、憎しみを浄化した。

私は理系方面の詳しいことは分からない。ただ、私の愛が本来あるべきところに戻っていったのだろう。




逮捕された時、使命を果たしたからか、彼は放心状態だったため、私は遂に本体に戻ることができた。しかしその直後、反動で私は気絶した。


病院に運ばれた私は、ほどなくして目を覚ました。最初に目が捉えたのは心配する両親であった。しかし、時が経つにつれ、その色は次第に怒りへと変わっていった。弁解して本当の事を話そうかとも思ったが、あまりにも信じ難いことであるため思いとどまる。病室には両親の他に、二名の警察官と医師がいた。

しばらくして病室全体の雰囲気が落ち着いた後、私は凶報を知らされる。蝕まれていたのは、心だけではなかった。私の体は身体的にも蝕まれ、肺に影ができていたのである。

医師の話によると、川に流されて運ばれてきた時に一応レントゲンを撮り、その際に発見したが、目覚めたばかりでこの話は酷であるし、まずは両親に伝えようと考えた、ということらしい。そして、彼は最悪の一言を付け加えた。肺癌はかなり進行しており、余命は三日ほどだろう、と。しかし私はきっと心のどこかで気づいていたのだろう。さほど驚きはしなかった。


無差別大量殺人では即刻死刑だが、未遂だったこともあり懲役十年らしい。私は今日だけこの病室で過ごし、翌日検査をして特に異常がなければ刑務所へ連行されることとなった。


私は、両親との会話を楽しんで、そして、悲しんだ。途中、さっきは口にしなかった真実を語ろうかとも思ったが、残り少ない時間を過去の暗い話に費やすのは惜しいと考え、心の中にそっとしまっておく。そして、最後になるかもしれない会話を噛み締める。

とても濃い一日であった。その疲れが私の瞼に重くのしかかる。久しぶりの感覚に、私は感動を覚える。そして、抗うことはできず、そっと瞳を閉じた。静かに涙が流れる。





私はその後、目覚めることはなかった。


翌朝、窓から差し込む光は、私の影を鮮明に刻んでいた。

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