第12話 私の話【side『私』】

『私』がどうしてここに居るのかなんて理由、分からなかった。

好きな本、好きな漫画やゲーム。滅茶苦茶忙しい職場だけど、やりがいのある仕事。

友達だっていた。週末にはみんなでボドゲやったり、カフェにいったり。そんなありふれた生活をしていたのに。


それが突然


ブツリ


って途切れた。


────え、なんで?


呟いてみたけど、何の音もしない。

反響さえもない。

真っ暗な景色が続くばかりの空間に放り出されて、何が起こったかも分からない『私』は、これは夢だと思った。


開いているのかも分からない目を閉じて、上下左右も分からない闇の中で横になってみる。

夢ならそのうち目覚めるだろう。って期待しながらずっと横たわっているのに、一向に目覚めない。

というより、眠れない。という感覚がある。

ということは、『私』は眠っていないということだろうか。


不安になって、『私』は目を開いた。

暗い。

再び目を閉じてみる。

闇があるばかりだ。


恐ろしさばかりが胸を突き抜けていく。


次に考えついたことは『私』は死んだんじゃないか、っていうことだった。

そして、ここは地獄なんだ。そう思った。

ラクダを針の穴に通すよりも天国への扉をくぐるのは難しい。って言われているぐらいだから、一般人の私が地獄に落ちるのは当然だ。


────地獄でも良い、誰かに会いたい


それが『私』の願いだった。

起きることを諦めた私は、立ち上がる。

もしここが地獄だったなら、同じように落とされた人がいるかもしれない。


────天国に行ける人が少ないんだから、地獄こそ人口過多の可能性がある!!


『私』は人を探すために、必死に走った。


足が地面を蹴っている感覚もないけど。

腕が揺れている感覚もないけど。

息が上がる感覚もないけど。

疲れも知らずでずっと、ずっと、ずっと走り続けた。


────怖い

────孤独だ

────誰かと喋りたい


肺が軋む感覚が欲しい。

脇腹が痛くなって、踞る懐かしさを味わいたい。

立ち止まって良いよ、っていう合図が欲しいのに身体は『私』を休ませてはくれない。


そしていつしか、止まることが恐怖になっていった。

動くのを止めたら、『私』は今度こそ消えてしまうんじゃないか。そんな妄想に取りつかれて、見えない何かから逃げ続けている。


走るのも嫌、止まるのも怖い。

『私』は誰かを求めて、必死に口を開いた。


『助けて!』


『助けて!!』


『誰か私を助けて!!!』


喉が裂けそうなぐらい声を上げるのに、音にならない。

走り続けて、何時間、何日、何年過ぎただろう。

感覚と気力なくすのに、十分な時間が経っていた。


────もういっそ、消えてしまいたい。


そう思った瞬間、『私』の意識は急速に何かに引っ張られていった。

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