5章:星降夜
1節:三人いっしょ
都市を壊滅させんと空を押しつぶしていく隕石の勢いはとどまることを知らない。
瞬きをするたびに、夜の星々が少しずつ黒い巨星に埋め尽くされていく。
これが映画やゲームならば、
だが現実にそんなものは無いのであった。いつアレが落ちるのか。そもそも、あの隕石がタワーの最上部に激突した時点で私たちの負けが決まってしまう以上、下の方の外階段からでは状況が判断できず、階を上がっていく度にノルンタワーが無事な事を祈るばかりだった。
そりゃ、今現在も上っている橘さんや皇さんの顔も余裕がなくなってくるし気を紛らわせる為に口数が多くなる。
先輩が私たち二人で上に向かわせた意図がよく分かった。本当に怖い。上ってくださっている橘様はもっと怖いでしょう。
恥ずかし事など一切なく、この状況下、これから先の自分の行動によって命運が決まってしまうかもしれないという緊張感に対して、私たちのようなか弱い女子中学生ができることは何も無かっただろう。思えば、地下での男との戦いだってそうだった。横に橘さんや皇さんがいてくれたから暗い夜の中でも進めたし、戦うことができた。
……だから、
走るのが二人よりも遅い私よりも、魔術に秀でていて動ける皇さんにおんぶをしてもらい、そのまま運んでもらっている今の状況は断じて!邪魔だとかお荷物だとかいらないとかそういうわけではないのである!
ここの支えは必要なんだ。いわゆる、私が今の皇さんにとってのカーナビでありザイルパートナーでもあんだ私はこの救出作戦の要なんだ……そう思うことにした。
「……別に邪魔だなんて思ってないですよ?」
「皇さん!!! わ、私いてもいいんだよね!? ただ橘さんに負ぶってもらって一息つきながら階下を眺めて今どのへんまできたんだろーとかぼーーっとしている無能の私にも居場所はあるんだよね!?」
「うん。じゃあ、もうちょっと静かにしといてもらえると助かる」
「あっはい」
皇さんが私を受け止め、橘さんが私を説き伏せる正論が決まった。
二人が進み、私は負ぶられたまま。
上空から迫りくる隕石が驚異なだけでタワーは健在で足場は安定している。なので、上っていて危険は今のところ無い。
ここ数分の間になんどもしていた自問自答。
なーんで私はここまで来ちゃったんだろうか……。
「なーんてね。冗談冗談。ブラックジョークよブラックジョーク!……さっきは命助けてもらったし、ここでくらい一人でやらせてほしいな」
見事なブラックジョークが炸裂。冗談だったからほっとしたが、言われている側からしたら本当に申し訳ないので素直に笑えなかった。
上り始めてからまだそれほど時間は経ってはいないが、今現在、私たちはノルンタワーを200メートルほど上ったあたり。目算でしかないけど大体の高層ビル数個分を超えたあたり。
そんな摩天楼をとりまく登頂の最中のこと、先ほどから橘さんのテンションがやけに高い。それはタワーにまつわるおやじギャグを10個ほど編み出すほど。運んでもらっている立場で申し訳ないが、皇さんと一緒にうまく笑ってあげるのに苦労した。
そんな横で走っている橘さんは語る。
「……実際、この世の終わりみたいな音を聞きながらの階段ジャンプは精神的にきついものがあるしね」
そんなことを言いながらも橘さんの移動は軽やかで、瞬く間に階をすっ飛ばしながら崩落しつつある外階段を上っていく。
皇さんもそれに負けていなかった。
「気もまぎれるし、なにか話しませんか?」
「いいね! さんせーい」
さすが体育でトップの成績を取り続けている人たちだ。息一つ乱さず楽しそうにご歓談してらっしゃる。怖くないのだろうか。というか私はなんでここに来てしまったのだろうか。ただの足手まといじゃないか。
「夏咲さん、暇ならなんかしゃべってよ」
「え、えぇ……万が一もあるし、こんな場で私みたいな無能が話振るのは恐れ多いんですけどぉ……」
「えー私達が良いって言ってるんだからなんか話そうよー。ね、皇さん」
「はい。大丈夫ですよ、夏咲さん。別にエベレストみたいな山を登ってるわけでは無いのですから、大丈夫ですよ!」
何が楽しいのか、皇さんもやけにテンションが高い。
本当に、この二人の底の見えない力には驚かされるばかりだ。
「いざとなったときの備えとしてのリボンもあるしさ。……あ、じゃあ私が話を振ればいいのか」
「そ、そういう問題かな」
「そういう問題だよ。せっかくだしさ、あの時私の代わりにあの男をやっつけてくれたあのナイフ?について教えてよ」
「あー、地下で使ったやつ? 別にいいけど、話半分に聞いてよ? 事故っちゃったら嫌だし」
特に皇さんには気を付けてほしい。
いや運んでもらっている立場で申し訳無いんだけどさ。
本当に気を付けてほしいと思いました。
「……じゃあ、さっそく本題に入るけどこのナイフは切るための道具じゃなくてこう、切られた相手に誤認させるための物なんだ。あの時みたいに、切れてほしい所にこのナイフを通して使うものなんだよ」
「効果がやけに限定的というか、戦闘向きですけど。それはなんでなんですか?」
背中越しに皇さんの疑問は魔術師を目指す人間としては当然の発想だろう。
魔術師はあくまで研究者だ。科学者が戦わないのと同じく、戦う為の魔術道具なんぞ純粋な研究者としては恥じるべきものだ。
もしかしたら、何か他の用途があるかもしれないが現状これは私のただの護身用の道具でしかない。
さすがに私の生い立ちについて話すわけにもいかないので適当にお茶を濁す。
「まぁこれは親から入学祝に貰ったただの記念品だよ」
それに対し橘さんが口を挟む。
「ペーパーナイフの基本原理と不観測によって生じる可能性の増大をかけ合わせたのね……ってそんなすごい物渡すなんて、ご両親はすごいのね」
横にいる橘さんがやけに感心している。
実際には訳の分からない師匠なんだけど、話がややこしくなるので言わないでおく。
「特になんかすごい力の籠った布巻かれてるでしょ、それ」
「ああ、そういえばせーがいふ、とか言ってたっけ。ねー橘さん、せーがいふってなんなの?」
「
話している最中に、いったん踊り場で休憩することにした。
そこで一度、皇さんは私を背負いなおし、少し息を整えてから外階段上りを再開する。
「聖人にもいろいろいるらしいから効果とかはまちまちだけどたぶん外界と内界、この場合は外と布の内側のナイフとの接触を断つものだね。言ってしまえば、その中は真空であり、無限の無であるってこと」
「ふーん。じゃあ
「より正確にややこしく言えば刃のある刃の無いナイフを振り回しているようなもの、かな」
「なんかややこしいね」
背中越しの皇さんも私の言葉に同意する。
刃物のあるもので切っているから切られたと感じる。でも実際は刃物なんて無いから切られているわけがない。
……結局、橘さんに話を聞いても師匠が作ってくれたこの道具の不可思議さが深まっただけな気がする。
「……はかないね!」
そんな与太話の最中に唐突な11発めのダジャレ。
「あはは……」
たぶん、刃が無いと儚いを掛けたのだろう。意味が分からない。
当の本人は自信満々なのが手に負えない。
「ふふっ。今のは面白かったですね、夏咲さん」
心の優しい橘さんの心の平穏のためにさりげなく笑ったのだけど、皇さんには好評だったようで。
声のボリュームを落として私に感想を伝えてきた。
二人は満足そうだからいいのだけれど、まったく、ダジャレとか、小学生で終わらせてほしいものだ。
「ま、そんな言語化できないほどややこしいことを実現させちゃってるんだから、それを作った人は天才よ。見えないから何を実現させても良いって、まったくもって理不尽だよ。雑なシュレディンガーの猫ね、ほんと」
「………………シュレディンガーの猫なの、これ?」
「ものすごい雑に言えばだけどね。って知ってるの?……なんかやけに眼をキラキラさせてるけど」
「うん!だってかっこいいじゃんシュレディンガーの猫!そっか、これシュレディガーの猫なんだね!いやーシュレディンガーの猫っていいなー!」
「……………………中二病ってやつ」
橘さんが何やらぼそっとつぶやく。背中越しだからよく聞こえなかった。
「へ? 橘さんなんて言ったの?」
「ううん、何も言ってないよ」
「そっか」
「でも夏咲さん、橘さんがなにかちゅーになんとかって」
「ああー皇さん! 今のはただの言葉の綾だから!」
「そうですか?」
何やら橘さんが焦っていたがおそらく何かダジャレでも言ったのだろう。ようやく自分のギャグの恥ずかしさに気づいたらしい。
「ちなみにあの道具って誰でも使えるの?」
話題が変わる。
橘さんはこういう話題が好きなのか、やけに食いついてきた。
「貰った時に言われたんだけど私用の特注品だって。それがどうかしたの?」
「いやー皇さんから話を聞いたら私も振ってみたいなーって。でも特注品なら下手に触らない方が良いかもね」
残念そうに橘さんは呟いた。
「この際だから聞きたいんですけど、夏咲さんは普段どんな授業を静稀先生から受けてるんですか?」
私のナイフについての話題がひと段落したところで、皇さんが訊ねてくる。
話題は、今から私達が助けに行く人へと移っていく。
「とりあえず細かい魔術的な話とかなんか全然関係の無い科学の話とか……あとは文学の話とかが多かったかな」
「へー。静稀先生はそういうの好きなんですね」
「なんか意外だね」
「まぁ先生のことについては私も全然知らないんだけどね」
普段自分の事を全然話してくれないので、先生が何が好きかは分からないのでこれ以上語れることは無い。
ふと思った。そういえば、最後に会ったときは先生にしては珍しく自分のことを話していた、そんな気がした。
「私、静稀先生のことよく知らないのよね。1年だったら、たぶん…夏咲さんだけじゃないかな?あの先生と関わってるのって」
「そうかな?……あーでもそうかも」
補修を受けているときにほかの生徒が訊ねに来た記憶があまりない。他の先生が来たことはあってもそれも仕事の打ち合わせとかだろう。
静稀先生という人間、評判自体はいいが彼と親交のある先生はほとんどいなく、お世話になっている生徒も、すくなくとも私は見かけたことが無い。
先生について二人が何も知らないのは何も1年生で先生の授業を受けていないからといった理由だけではないだろう。
先生は、人間が嫌いなんだと思う。
実は寂しがりとか、そういうのじゃなくて。本当に人間が嫌い。
誰も必要としないのではなく、誰も必要にできない。
そんな病気があったらの話だけど、先生は人間アレルギーだ。
だって、初めて会った時の拒絶具合は今にして思えばやばかった。入学したてで右も左も分からない状態で会ったときに、男の大人の人って実はみんなこうなのかなとか、考えちゃったくらいだ。
そんな人が私の特別補習の担当になってくれたのはきっと、いろんな葛藤と苦痛を我慢してくれているからだろう。
だから、先生には感謝している。こんな
「……先生といえば、今何してるんだろうね」
皇さんの背中越しに見える空を見る。
地下で先生から使い魔越しに連絡が来てから、少なく見積もっても20分以上は経つはずだ。
なのに、未だに隕石の勢いは収まらない。
先輩の話が間違っていなければ今回の事件はあの隕石を形成している魔法陣一つを壊せばそれで終わるはずだ。
先生が仕事をすっぽかしているのか。それともあの男の処理に手間取っているのか。……もしくはそのまま死んでしまったのか。
いや、それは無い。根拠など無いが、断言できる。先生があの男に負けるわけが無い。
じゃあ、一体どうして隕石はまだあるんだろう。
「ねぇ、二人に提案なんだけどさ」
素直に、不安な感情を伝えてみる。
「もし、このまますんなりと隕石が止まらなかった時の為にさ。最上部の少し手前の展望フロアで二手に分かれるってのはどうかな?」
「二手に? どうやって?」
「私が階段を昇って行って二人が壁を伝っていって移動。もし、あの男がまだ生きてるなら橘さんが後ろから奇襲できるようにすれば何とかなると思う。先に着いた私が囮になるってこと。できる?」
「できるけど……無茶なこと言うね」
「あ、ごめん!……危険すぎるよね」
「なんてね。冗談だよ。その作戦には大賛成。夏咲さんの言う事なら喜んで従うよ」
「私も大丈夫ですよ」
「……二人ともありがとう」
なんだか橘さんと皇さんには無茶ばかり言っている気がする。
これが終わったら何かお礼でもしたい。そう思えた。
「……それにこのタワー。なんかキナ臭すぎるのよね」
橘さんは不安げに語る。
「なんか、このまますんなり攻略させてくれなさそうな気がする」
「どういうことなの?」
「実は私もソフィア先輩の解説を聞いてたんだけどさ、こんだけでかい塔がただの魔法陣としての意味しかないって、ちょっと考えづらいなって思ってるんだ」
先輩が静稀先生づてに教えてくれた話。
曰はく、このタワーは全体が魔法陣でもあり、全体のほとんどがなくても成立するもの。どこかが損傷しても埋め合わせが成される魔法陣。
儀式を稼働させ隕石を生み出すエネルギーの補給元。
「……ここからは私の考察。後は先生にでも聞いて。」
そういって橘さんは自身の考察を語り始める。
「結論から言えば、このタワーは何かを受信、送信するための場所なんじゃないかと思うの。つまり、魔術的な電波塔。それも下手したら電子ネットワークに概念的な干渉ができる危険なもの」
「先輩の言ってた儀式の魔法陣としての役割以上のものがあるってこと?」
「うん。確かに、高いところで神秘の純度を高めつつ、隕石を生み出すっていう強力な魔術を実現させる為にこのタワーを作ってもおかしくない……おかしくはないとは思うんだけど、それだけならあまりにも街の人たちに被害が行き過ぎてるのよね。ここに来るまでにほとんどの人がダウンしてたのは覚えてる?」
「うん。でもあれは寒さにダウンしたとかじゃないの」
「そうともこじつけられるだろうけど……なら、なんで聖籠女学院の子たちは平気だったのかな」
「それは……そうだね。なんでだろ」
学園は街のタワーからそれなりに離れてはいるけど、学園近くの街の人も同じように被害を受けていたことは来る途中で確認している。
虐殺鬼に襲撃されたことによる被害はあっても気絶は無かった。
「何かしらの電波攻撃を受けてるとか? 陰謀論っぽいけどさ」
「うーん、どうなんだろ……それならここまで高くてもおかしく、ないのかな」
それっきり橘さんは黙りこくってしまった。
どうやら、彼女でもこの考察に答えを出せないでいるようだ。
「……情報を集めるって部分が重要なのかもね」
橘さんは思いついたことを適当に呟いた。
それに対し、皇さんも小さく不安を漏らす。
「……この隕石っていったい、何なんでしょうね」
気の利いた言葉を返せずにいた私は別の話題を振ることにした。
「今気づいたんだけどさ、魔法陣が壊れて儀式が終わるならタワーに隕石が落ちて壊れた瞬間に隕石は消えるんじゃないの?」
あくまで儀式の要は一つ。
なら、少々手遅れ感はあるが、それができるなら最悪何とかなるはずだ。
「たぶん、そんなミスくらいとっくに想定されてると思う。……テレビのリモコンのようなものじゃないかな。リモコンを壊してもテレビは止まらないでしょう? 一度電源をつけてしまった以上、リモコンのボタンを押さなくてはテレビに映し出される映像は止まらない。消すにはリモコンから電源ボタンを消すしかない。……そういえばテレビは本体からでも消せるんだっけ。だとしても何かしらの手順を踏まなくては消えないようになってるはず」
「つまり儀式のオンとオフを切り替えるものとして大事な魔法陣が一個だけ最上部にあって、それを使って正しい方法で儀式を終了させないといけないってことか」
「たぶん、そう……ってことは静稀先生はそれに手間取っているのかな」
「どうだろ。先生に限ってそんなことは……」
ソフィア先輩がしていた考察は先生が考えた考察だったはずだ。
そこまで考えられる先生がそんなミスするだろうか?その程度の人間なら組織の人間も任せないはずだ。
なおさら気になるのは……先生は今、何をしているのだろうかってこと。
「とにかくこの隕石が収まらなかったら私たちは仲良くお陀仏なのよね」
「……うん。考えたくないけど」
「後悔してる?」
「全然! 二人こそ大丈夫?」
私の返答に対し、二人の言葉が同時に聴こえた。
背中越しで顔を見なくても分かる。二人は笑っていた。
*
前兆830メートルの内の大体6割ほどの部分に到達したころ。
只今死の危険にさらされているノルンタワーの展望フロアにそろそろ到達しようかというところ。
近づく決戦に向けて私たちは互いに緊張しているところだった。
「……なんとか間に合いそうだね」
「そうね」
「改めて聞くけどさ、二人はどうして先生の為にここまで来てくれたの?」
ここに来ることに後悔は無いと彼女達は言った。それは私も同じだ。
しかし二人は私と違って先生への恩とか無いはずなのだ。
この状況は私のわがままみたいなもの。この時間が終わるまで。今のうちに橘さんと皇さんの気持ちを確認しておきたかった。
それに……これで最後かもしれないからだ。
またこうして学園で話すことなんて無いかもしれない。そんな少しだけ寂しい気持ちのまま二人の言葉に耳を傾けた。
「理由? そんなのなんとなく以外無いかも。ね、皇さん」
「はい。なんとなく、です!」
「……そんな理由なの?」
「そういうもんじゃない? 女子中学生が隕石に立ち向かう理由ってさ」
「それは……どうなんだろう?」
「日曜のアサにやってるアニメだって案外そんな感じじゃなかったっけ?」
「……彼女は彼女たちなりにもうちょっと世界を救おうとか考えてたと思うけどね」
皇さんだけは何がなんだか分かっていないようできょとんとしてる。
そんな、こんあ状況にしてはバカげているような理由だけど、なんだか私達らしいかもしれない、そう思えた。
不思議だ。こんな長く話したのなんて今夜が初めてなのに。
「なら、私達は隕石には負けないね」
三人の会話はもうちょっとだけ続く。
気づけば、目的地まであと数階程度だった。
「学園はどうなるんだろうね」
「確かに。授業とか、いつも通りにやるのかね」
「学園が平和で休みがいっぱいだったら最高ですね。赤点の補習なんて無い、一日中休みの日」
「あーそれ良いかも。ついでに補習とかチャラにならないかなぁ」
「……もう少しちゃんと勉強したら?」
二人で他愛もない話をする。
話題は学校の話。
当たり前のようにこの後の未来の話をする。
こんなにも楽しいのに、たくさん笑ってるのに、
上に上がっていくスピードが下がらないのが不思議だ。
今もこうして隕石が落ちようとしているのが不思議だ。
橘さんとここまで話が弾むなんて、本当に不思議だ。
今夜だけでもたくさん不思議なことが起こっちゃったから…………もう同じことが何一つ起こらないのかもしれないのが…………怖い。
そりゃ殺し合いなんてもうごめんだし、隕石なんてもっと嫌だ。
でも、橘さんと皇さんとの関係がこれっきりなのは────嫌だな。
「……ねぇ、二人とも」
あともう少し。これから上がっていくために息を整えているときについ、口から本音が出た。
二人の視線が私に集まる。
「────────この戦いが終わった後もさ、こうやって三人でお話とかさ……したい、なって」
その言葉に二人は顔を合わせて
『いいよ/ですよ!』
声が同時に響く。
実は三人とも考えていたことは同じだったんだ。
その言葉の後に。
三人で笑った。
────そろそろ幕間が終わる。
生きていくうえで、この局面においては無駄な会話が終わる。
でも人生ってそういうものだろう。無駄ばかり洒落ばかりのオンパレード。
暖かい背中を下りて前を向く。
二人とは別かれ、タワーの展望フロアを抜けて最上部に到達。
そこには、血まみれの男二人が居た。
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