第5話 お、同じクラスだよ……!

 なんだか知らんが、学校でも最高級の美少女と付き合うことになってしまった。


 しかも彼女は未来人……という設定である。ラノベ好きの僕のために、ラノベみたいな設定を作ってきてくれたようだった。


 そうして告白されたのだが……とりあえず友達から始めることになる。僕はまだ彼女のことをよく知らないので、いきなり受け入れるのは逆に失礼な気がした。


 いったんお互いの家に帰って、服を着替える。2人ともびしょ濡れだったので、流石にその状態で登校はできない。


 手を繋いで歩きながら、彼女が言う。


「2年生進級初日から遅刻だね……」

「……ごめん、巻き込んで……」

「あ、いや……そういう意味で言ったんじゃなくて……」もちろんわかっている。「クラスに馴染めるかなぁ……心配」

「心配……?」時鳥ときとりさんなら心配いらんと思うが。「未来から来たんじゃなかったの?」


 孤立するかしないか、彼女は知っているはずだ。


「あ……」この感じだと、すぐにボロが出そうだな。「そ、そうそう……未来では、その……孤立しちゃって……」


 必死に取り繕うのが面白い。


 もう少しからかってみよう。


「そういえば……同じクラスだと嬉しいね。クラス分けはどうなってるの?」

「ク、クラス分け……?」当然、彼女が知ってるわけもない。「そ、そそ……それはね……お、同じクラスだよ……!」


 勝負に出やがった。到着してからのお楽しみ、とか言ってごまかせばいいのに……

 これで僕と時鳥ときとりさんが別のクラスだったら、どうするつもりなんだ……さっそく未来人じゃないことがバレてしまうが……


 ……


 その時は助け舟を出してあげよう。別の世界線になったとかどうとか……


「お、同じクラスだったんだけど……!」またなにか思いついたようだった。「ほ、本来のキミは、川で溺れて亡くなっちゃって……」

「そうだったのか……」


 だんだん楽しくなってきた。


「そ、そうそう。で……キミのことが好きだった私は、ショックを受けたの。そのまま成長してたんだけど、タイムリープして戻ってこれたから……」

「ありがとう……じゃあ、時鳥ときとりさんは本当に僕の命の恩人なんだね」

「え……? あ、そうなる……のかな?」


 この人……ごまかせている気でいるのだろうか? 僕が時鳥ときとり子規しきのことを未来人だと思っていると……本気で信じているのだろうか?

 

 最初に見せたノートも……本当に見られていないと思っているのだろうか? 


 噂に違わぬアホなのか……それとも……


「し、始業式は終わっちゃってるかな……?」露骨に話題を変える時鳥ときとりさんだった。「クラス分け、先生に聞かないとね……」

「……」聞くまでもなく知っているはずでは……?という野暮なことは言わないでおこう。「そうだね……」


 そうして歩いて、学校を目指す。


 いつもの通学路だ。道も変わっていない。1年生から2年生になったとはいえ、別に通学路が変わるわけじゃない。

 

 ありふれた天気だ。太陽が眩しくて、晴れ。雲がところどころ見えるだけの、平凡な天気。


 ……


 それでも、僕の心は揺れている。心臓が早鐘を打っている。体温も……少し高い気がする。


 隣に美少女がいるというのは……それだけで緊張する。しかも手を繋いでいるから……余計なことを考えてしまう。

 僕の手は汗をかいていないだろうかとか、強く握りすぎていないかとか……歩行速度はこれで良いのかとか、会話は盛り上がっているかとか……


 とにかく頭が彼女のことでいっぱいだ。顔も赤い、気がする。


 彼女はこんな状況には慣れているのか、平静そのもの……

 

 では、ないようだった。


 彼女の顔が赤いのが見えた。そして彼女の手もまた、熱くなっていた。お互いに緊張しているから気づいていなかっただけだった。


「き、緊張するね……」彼女が上ずった声で、「好きな人と一緒にいるだけで、こんなに緊張するんだね」

「……」好きな人とか気軽に言わないでほしい。昇天しちゃう。「そ、そうだね……」


 それから、会話がなくなった。お互いがお互いのことを意識して、喋れなくなってしまった。

 そんな時間すらも、愛おしいと感じる。気まずいとは感じなかった。


 そうこうしているうちに、校門の前までたどり着いた。


 うちの学校は登下校の時間以外、校門は閉まっている。他の学校がどうなのかは知らんが、防犯の観点からすれば当然の処置だろう。


 守衛さんに頼んで校門を開けてもらわないといけないのだが……


 どうやら、先客がいるようだった。


 守衛さんはその女子生徒に向かって、


「キミが遅刻とは珍しいね……」


 遅刻が珍しいと言われる人物……相当真面目な人物なのだろう……

 

 って……


宿木やどりぎ会長?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る