第4話 後悔したくないからね

 さてどうしたもんか……学校最高峰の美少女に告白されてしまった。


 しかもどうやら……これから彼女は未来人のふりをしてくるらしい。今のところ、その片鱗は見えないが……


「読んだよ」

「あ……」彼女は僕に向き直って、「……ダメ、ですか?」

「……」まだ答えは出せない。「……理由を聞いて良い?」


 どうして彼女は、僕に告白してくれたのだろう。


「あ……その、私ね……」彼女は覚悟を決めた目で、「本当は、未来からきたの」

「……」笑ってはいけない。「み、未来……?」

「そう……25歳の時代からタイムリープしてきたの」


 忠実に設定を守っている。ノートに書かれていたとおりだった。


「それでね……せっかく戻ってこれたから、今度こそ好きな人に告白しようと思った」

「今度こそ……?」

「そう……私は、高校時代からあなたのことが好きだった」


 ……高校時代から僕のことが好きだった……

 彼女は本当は未来人ではない。タイムリープなんてしてない。

 

 つまり……今現在の彼女は、そのまま僕のことが好きだということだ。


「……なんで?」純粋に疑問だ。「なんで僕のことが、好きなの?」

「ええっと……まぁ一目惚れなんだとは思うけど、理由をつけるなら……」彼女はしばらく思考して、「お人好しなところ、かな」

「お人好し?」

「びしょ濡れになってまで、見ず知らずの子犬を助けようとするところ、とか」

「それは……」


 カッコつけたかっただけだ。僕が優しいからとか、そういうことじゃない。


「ただの偶然だよ……気まぐれというか……」

「そうかなぁ……私は知ってるよ。キミの……良いところ」

「勘違いだと思うけど……」良いところなんて、楽観的なことくらいだ。「まぁ、それは置いといて……」


 自分を好きになってくれた理由なんて、聞いたら恥ずかしいだけだった。


 そうして、時鳥ときとりさんがなにか張り切った様子で、


「私が未来人だって証拠がほしいんだね?」

「……」別に欲しくない。だって彼女は未来人じゃないし……「……えーっと……」


 本来、未来人の確認をしたいのなら……僕だけが知っている合言葉を教えれば良い。そういう設定のラノベが好きだから、考えていたことがある。


 とはいえ、その合言葉は緊急事態を示す合言葉でもある。気軽には聞けない。


「キミが子犬を助けようとして溺れるのも、私は知ってたんだ。だから、助けにこれたの」


 偶然出くわした場面を証拠として使おうとしている。この人……なかなか度胸あるな。


 ……時鳥ときとりさんからすれば、僕が溺れるなんて知らないことだ。だって未来人じゃないのだから。


 ちょっと、からかってやろう。


「……僕が溺れる前に助けてほしかったな……」

「え……? あ……」この返答は想定外だったらしい。「そ、それは……タイムリープしてきて、最速でここに来たんだけど……それでもギリギリで……」

「あ、なるほど。ごめん……ちょっと意地悪な言動だった」


 たしかにごまかせる範囲だ。タイムリープしてきた時間が、僕が皮に入った瞬間だとか言えばごまかせる。


「それで……えっと……」時鳥ときとりさんはモジモジしながら、「返事は……」

「……」僕からすれば断る理由を感じないけれど。「月並みな言葉だけれど……友達からでも良いかな……」


 まだ僕は彼女のことを知らない。でもまぁ……きっと最後には受け入れると思う。


 だって彼女は……溺れているのが僕だと知らずに助けに来てくれた。彼女が現れたとき、僕はすでに水中だったのだ。だから……僕だと気づくことは難しいだろう。

 更に彼女は泳げない。なのに……危険を冒して助けに来てくれた。


 渡すノートを間違えるようなアホだけれど、きっと悪い人じゃないのだろう。


「あ、ありがとう……」照れた顔が可愛い、「じゃあさ……手、つないでいい?」

「……積極的だね……」

「ごめん……でも、後悔したくないからね」


 未来を変えたいのなら、今を変えるしかない。


 彼女のノートに書かれた言葉を思い出した。

 未来を変えるために、彼女は今に全力なのだろう。今を必死に変えようとしているのだろう。


 ……今を変える……


 言葉でいうほど簡単なことじゃない。だけれど、彼女は行動してくれた。


 その気持ちには応えないといけないだろうな。

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