人形寺へ

私…藤野涼子はぬいぐるみになってしまった仁の事を考えていた。

そして…私はふと思い出した人形寺というぬいぐるみやら人形やらを行き場がなくなった奴らを納める寺の事を思い出したのだ。

もしかしたら、そこでお祓いなどをしてもらったら仁も戻れるかも知れない…と。


だが、これは一種の賭けではある。

そもそも仁がこんな事に巻き込まれた事も怪奇だがそれなら寺に行ってみるのもまた科学的根拠のない賭けであるのだ。

だけどこれはどうしようもない私の精一杯の仁を救う為の行動なのである。

絶望から見出した行動。

私は家へと電話する。

すると使用人の刈部が出る。


『お嬢様…分かりました!ではこれからそちらへ向かいます。』

『ああ…頼む。』


私はこうして仁の屋敷で待つ事にしたのだ。


「仁…待っているのだ…私が必ず……。」

こうして程なくして我が家の車が私を迎えに来たのだ。

私はぬいぐるみになったのであろう…クマのぬいぐるみの仁を抱き車へと乗り込む。


「お嬢様…。」

「刈部…深夜にすまぬな…詳しい事は後で話す…人形寺へと向かってくれ。」

「分かりました。」

人形寺のある某県某市。

私達が仁の屋敷を出発して二時間…時は深夜を深くまわっていた。

予め連絡まで頼んでいた為。

そして緊急性があった為…私は必死に住職に頼んでいた。

そしてなんと住職は起きて待っていてくれたのだ。

寺へと到着し、バタンと車のドアをしめる私。

手には仁を握りしめていた。


「お嬢様……。」

「ああ…すまぬが貴様にも何かあっては困る…ここで暫し待っていてくれ。」

「分かりました…ですが何かの際には連絡をお待ちしております。」

「ああ…では行ってくる。」


私は刈部にそう言い残すと、仁を連れ本堂に向かっていく。

ここは人形寺と呼ばれるが故…本堂迄の道のりにはぬいぐるみ…そして人形等がズラリと並んでいる。

深夜…闇夜にちょっとした灯りが灯り照らし出される人形達の群れはかなり不気味である。

普通に歩いたら確かに恐怖心が生まれそうだが…今は仁がこの手の中にいる。

それだけで私に安心感が生まれていた。


(仁…こうしていてくれるだけでも…心強い。)


私は心でそう仁に語りかけていた。

辺りはシンっと静まり返っている為今は私の足音しか聞こえていない。

それが不気味さを助長する。

ザッザッと敷砂利を踏む私の足音。

辺りにはお清めを受け…払われたであろう動かない人形やぬいぐるみ達。


実はここはそんな人形達を払って欲しい…そして捨てる訳にもいかないコイツらを安置して欲しいとの要望から大半のぬいぐるみ達はここへと祀られるという有名な寺でもある。

それは全国から集められる為にもの凄い量の人形達がいるのだ。

そしてぬいぐるみやら人形には魂が宿るという怪奇話は古くから存在するのだ。

私も聞いた事はあるが、有名な話は日本人形の髪の毛が伸びたり目から血の涙を流す等の話はかなり有名な話であると思う。

だからこそ…やはりここは不気味すぎるのだ。

故に流石に本堂へと向かうだけではあるが恐怖心は増すのだ。


(仁…仁………。)


私は仁に語りかけるようにして自分の恐怖心を払いつつ本堂へと向かうのだった。


だが…ここの寺は本堂までが本当に長かった。

寺の門をくぐると暫く石段があり…そしてまた門がある。

そこから木々が生え揃う林の中に道がある。

足元には折れた木々等が落ちたりもしてパキリパキリと踏み折る音等も時折してしまう。


すると。


ガサガサッと辺りに動物かの足音が聞こえたりもする。


(くっ!?大丈夫だ…私には仁がいるのだ…負ける訳にはいかん。)


私は意を決し先へとその足を急いだのだ。

こんな恐怖心に耐えながらようやく本堂のある場所まで出てきたという訳だ。


(一人のようで一人じゃない…仁…ありがとな。)


私はそう仁に語りかけていたのだ。


こうして…いつしか寺の中心なのだろう場所まで私は来ていた。

すると目の前…五十メートル先位にポツンと灯りが見えたのだ。


「おお…あの建物が本堂なのか?」


そこまで大きくはない建物。

確かにお祓いはそこでするのであろう本堂。

すると微かにお経らしき声が聞こえてきた気がしたのだ。


「住職か。」


私は薄暗いがぬいぐるみを見つめる。


「もうすぐだぞ…仁……。」


すると…ぬいぐるみの目の部分はキラリと何かが灯りに反射し光った気がしたのだ。


(涙なのか??)


「ふ…まさか………な。」


私はぬいぐるみの仁を抱きしめ。

本堂への道を歩いたのだった。

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