第51話 危機的状況

 屋敷での生活を十分に謳歌してから、エリーシェとリンを連れて外出する。


 行先は、ルーナの家。


「ルーナさん!」


「やあ、よく来たね」


 エリーシェと再会したルーナは心なしか嬉しそうにも見える。


「久しぶり……なのかな」


 俺としてはかなり時間が空いたような気がしていた。


「君たちが出て行って一週間くらいかな。この家も広く感じるよ。ああ、そうだ」


 そう言って彼女は奥の部屋から何かを取り出してきた。


「これ、何?」


 それは緑色のメタリックな石みたいなものだった。


「ミスリルだよ。最近、錬成に成功したんだ」


「ほう……錬金術か」


 その光沢のある金属を観察する。何か魔力のようなものも宿っていそうな気がする。


「これ、武器屋に持っていったら強い武器が作れるかもしれないよ」


「なるほど」


 例えば銃弾にしたら強い力を発揮するかもしれない。


「早速持って行ってみるよ」


「まあ、ただじゃあげないけどね」


「言い値で買う」


「そうこなくっちゃ」


 お代を払ってルーナからミスリルを受け取る。


「この店の経営はうまく行っているのか?」


「最近は持ち直してきているよ。まあ、黙ってたけど、前は赤字だったかな」


 いくら金に困っても、また悪い奴らとつるまなければいいが。一回エリーシェも売られているしな。



 その後、装備屋のダンデのところに行った。


「よう、兄ちゃん。ロックスの野郎を殺ってくれたって聞いた時は、心がすっとしたぜ」


 ワッハッハ、と笑うダンデに事の経緯を説明する。


「そりゃ大変だったな。こちらからも、礼をさせてもらわなきゃならねえ」


 そう言って一発の弾丸を取り出す装備屋。


「これは?」


「聖弾だ。アンデッド系に強大な力を発揮する。一発しかないが、極秘入手した。この貴重品を渡そう」


「いいのか?」


「ロックスを倒したお礼だ。だが、使用はよく考えてくれ。これでしか倒せないアンデッド系モンスターなんてそう居るもんじゃないからな」


 ダンデから聖弾を受け取り、ルーナからもらったミスリルをカウンターの上に置く。


「こいつは?」


「ミスリルだよ。これで弾は作れないだろうか」


「なるほど、ミスリル弾ってやつだ。いいぜ。作ってやろう」


 ダンデはミスリルを奥に持って行った。


「他に、注文はあるかい? 短剣の使い心地はどうだ?」


「問題ありません」


「なら良かった」


「切れ味のいい包丁は置いてありますか?」


「包丁……包丁はさすがに置いてねえな」


 今のところ、リンが欲しているのは調理用具のようだ。しかしここは装備屋だ。


「あの、私、杖が欲しいです」


 エリーシェの意外な一言。杖?


「杖が欲しいって、魔法使うのか?」


「ルーナさんに基礎的な魔法を教わったんです」


「ほう、だったら必要かもな」


 エリーシェも知らぬ間に成長していたようだ。


「長杖かい?」


「いえ、片手でアイテムを使うので、かさばらないものがいいです」


「じゃあこれはどうだい? マジックワンド。初心者にも扱いやすい」


 ダンデから受け取った杖を貴重品のように受け取るエリーシェ。


 杖を構えて魔力を溜めて振る。


『ファイアブラスト!』


 杖の先で火が炸裂する。


「おいおい、店を燃やしてくれるなよ?」


 意外な威力にたじろぐ店主。


「うん、問題なく使えるんじゃないかな」


「はい、これがいいです」


「じゃあ決まり……だな」


 杖を買ってもらったエリーシェは、


「これで一緒に戦えます」


 と嬉しそうだった。


「久々に冒険者クエストでも受けてみるか? エリーシェも冒険者として登録したらいいんじゃないかな」


「はい!」


 そして、三人で冒険者ギルドへ向かうことになった。



 冒険者ギルドは、なぜか閑散としていた。そして誰も彼も元気がない。


「そこの方、要件をどうぞぉ~」


 受付嬢の、確かイコーヌとかいう女は間延びした声を響かせながらやる気のない仕事をしている。


「いいクエストはないか?」


「最近は、魔物すら引っ込んでしまいましたねぇ」


「どういうことだ?」


「それが、砂漠遺跡に魔王軍が現れて、近いうちにディバンに攻めてくるらしいんですぅ」


 魔王軍? 俺たちが宝珠を取り去って魔界門が開かれたせいか!


「ですからぁ、魔王軍討伐のクエストしか今はないんですぅ」


「じゃあそのクエストを受ける」


「へぇえ? やめた方がいいですよぉ。この街から逃げる冒険者も多いですしぃ」


「やると言ってるんだ。手続きをしてくれ」


「わ、わかりましたぁ……」


 おどおどしながらイコーヌは魔王軍討伐の受注手続きを始めた。


 宝珠はまだ三つしかそろっていない。まさか本当に魔王軍が攻めてくるなんて思わなかった。


 これはいよいよ、ヤバいかもしれない。

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