第40話 出立

 時間に猶予はない。ロックス討伐のために俺は装備屋に赴いた。


「よう、仮面の兄ちゃん。しばらく見なかったな」


「武器が欲しい。迅雷のロックスを一撃で葬り去れるような、強力なやつだ」


「開幕一番それかい?」


 ダンデはカウンターの下から箱を取り出した。


「魔晶石弾、フルコースだ。炎撃弾、水撃弾、風撃弾、地撃弾、氷撃弾、雷撃弾、光撃弾、闇撃弾」


「いいのか? 魔晶石は不足しているだろう」


「いいさ。兄ちゃんがロックスを倒してくれるならな」


 ニカッ、と店主は白い歯を見せて笑った。


「俺は昔、ロックスとパーティを組んでいたことがある」


「そうなのか?」


「ああ。相変わらず自分勝手な野郎だったさ。迅雷って二つ名は雷のことだけじゃねえ。攻撃速度の速さを例えたんだ。知らぬ間に踏み込まれ、斬りつけられている。しかも麻痺性の電撃をまとった攻撃だ」


「防ぐ術は?」


「ない。鎧の上からでも叩き伏せられるし、電撃が回る。兄ちゃんの立ち回りとしては、絶対に当たらないことだ」


 敏捷性と回避力を生かして背後に回り込むか、遠距離から勝負をかけるか、それは俺次第だ。それなりに厄介な敵ではあるらしい。


「俺は格闘家で前衛だったが、奴の攻撃のとばっちりを受けて、目に電撃が入っちまった。おかげでこの有様さ」


「じゃあ、本の読み過ぎじゃなくて……?」


「ロックスのせいで俺は冒険者を引退する羽目になった。だから、兄ちゃんがあいつを倒すってんなら、いくらでも力を貸すぜ」


 そう言ってダンデはもう一つ木箱を取り出した。


「これは徹甲弾だ。鉛弾よりも貫通力があるぜ」


「今日は大放出だな」


「兄ちゃんが来ない期間、俺も何もしていなかったわけじゃねえ。あんたがそう簡単にはくたばらねえって思ってたからよ」


 俺が船旅をしていた間にいろいろしてくれていたんだな。


「じゃあ、順に説明していくぞ。魔晶石弾は説明の必要がないな。高速で敵に着弾すると共に弾頭が炸裂する。もちろん不発の時もあるだろうがな。鎧や魔物のうろこに当たれば確実だ。そして徹甲弾は、厚い鎧すら貫く必殺の弾だ。ロックスも今はいい鎧と兜をつけてるだろうからな。うろこが硬い魔物にも当然有効だ。例えば、ドラゴンとか……」


「出るのか?」


「鉱山都市周辺はドラゴンの山脈だ。襲われた時のために、自衛の手段は必要だろう」


「全て、言い値で買おう」


「随分と気前がいいな」


「今後もお得意様でいたいからな」


「ロックスの件はディバンの運命がかかってる。鉱石が供給されなくなったら、職人も冒険者も終わりだ。頼んだぜ、クレド」


「ああ」


 アイテムボックスに銃弾を全て詰め込むと、店を出た。



 馬を二頭用意し、鉱山都市に向かう日になった。


「本当に二人で行くの?」


 ルーナが心配そうに声をかけてくる。


「行くさ」


「ボクもついて行った方が……」


「駄目だ。ルーナはここでエリーシェを守れ。それが命令だ」


「クレドさん……」


 エリーシェがぎゅっと抱き着いてくる。


「大丈夫だ、必ず戻ってくる。それまで、ルーナとここで大人しくしていてくれ」


「私、足手まとい、でしょうか……?」


「そんなことはない。危険に巻き込みたくないだけだ」


 エリーシェは黙って俯いてしまった。


「リン、来れるか?」


「はい、ご主人様」


 リンの俊敏性があればロックス一味に後れを取ることはないだろう。


「じゃあ、行ってくる」


 ルーナの家を出て馬小屋へと向かう。


 旅の荷物などはアイテムボックスに入っている。


「本当に、私たちだけで良かったのでしょうか」


「これは隠密行動だ。ギルド協会もディバンも関係ない」


 リンは口元をマスクで隠しているし、俺は仮面を着けている。俺たちの独断なら、エディフィスとディバンが戦争になることはない。


「行くぞ」


 この日のために、ステータス画面から乗馬スキルを解放しておいた。


 馬に乗り、まずはドラゴンの山脈へ向かう。


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