第21話 奴隷市場

 奴隷市場に着くと、人でごった返していた。裕福な商人が多そうだが、それ以外の、ただ単に奴隷を見物しに来ただけの冷やかしもいる。


「さあさあ、まずはこの奴隷から!」


 奴隷にされるのは亜人族が多いようだが、皆、麻布で胸と股を辛うじて隠しているだけで、ほとんど裸だ。


 奴隷は皆、台の上に立たされ、鉄の首輪をされて一列に並んでいる。首輪は逃げないように鎖でつながれている。


 俺は早めに来たので、前の方で見物できていた。隣に、でっぷりと太った商人が来た時は、さすがに気まずかった。


「仮面のお兄さん、ここは初めてですかな?」


 隣の赤い服を着た商人がナメクジような細い目をして俺を見た。まさか話しかけられるとは思わなかった。


「私は商人のマルコー。ここへは良く来るんですよ」


 確かに、奴隷が好きそうな見た目ではあるが。


「俺はクレド。初めて来た。戦える奴隷も中にはいると聞いたからな」


「ほう、冒険者の方ですな。奴隷というのは、奴隷印さえ刻めばどんな命令でも聞きます。それこそ、死ぬまで戦わせることも可能ですぞ。ひょっひょっひょ」


 変な笑い方をする奴だ。流行っているのだろうか。


「奴隷印はどこに刻んでもいいのですぞ。私は大抵、下腹部に刻みますがな」


 その口ぶりだと、いくつかの奴隷を所有していそうだ。かなり裕福な商人なのだろう。


「では、次の奴隷、遠方の島国イスラから来た黒髪の少女、これは上玉だ。元暗殺者で、戦闘能力も有しているぞ」


 手錠をされた少女が無機質な目で奴隷市場に並んだ。手錠は首輪に鎖で繋がれている。やけに厳重な拘束だ。


 ぱっつんな前髪、ボブカットの黒髪、雪のように白い肌。スレンダーな体躯の少女。


「あれは上玉ですな。ぜひ欲しい。なかなか手に入らない代物ですぞ」


「そうなのか?」


 確かに、戦闘能力を持っているのは魅力的だ。見た目も、かなり好み。


「金貨20枚で!」


 マルコーが手を上げる。大きな声を出して競売に参加しなくてはならないらしい。


「金貨25枚!」


 俺は訳も分からず手を上げる。奴隷の競売自体初参加だ。


「金貨40枚!」


 マルコーが強気に出てきた。だが、俺には遺跡でドロップした品を換金した蓄えがある。


「金貨50枚!」


 その一言で場が静かになる。俺以上の額を提示できる者はいないようだ。


「では、仮面の冒険者に契約の手続きを!」


「いやあ、お見事ですな。冒険者でそれほどの額を提示できるとは」


「いや、どうしても欲しかったもので」


 マルコーが相変わらずのいやらしい目で見てきたので愛想笑いで返す。


 俺は奴隷市場の裏で契約とやらに赴く。


「奴隷印はどこに刻みましょうか。普通は下腹部なんですが、好き物の方はよく見えるように額に刻んだりもします」


「下腹部にする」


 よく分からなかったので奴隷商にそう言っておいた。


「承知しました。それでは、指輪をはめて手をかざして魔力を込めてください」


 魔法の銀の指輪。俺はそれを左手の薬指にはめた。これなら銃の扱いにも支障はないだろう。

 少女の指を針で刺し、銀の指輪に彼女の血を吸わせる。

 そして黒髪の少女の下腹部に左手をかざすと、奴隷印が刻まれていく。


「くうううううううっ!」


 彼女はビクンビクンと痙攣し、悶えている。それはぼうっと光り、紋様として定着した。


「これは奴隷を制御する指輪です。指にはめることで効果を発揮します。奴隷は従順になりますし、どんな命令でも聞くでしょう。契約を解消する時には、手の甲を当てて同じように魔力を込めてください」


 それは便利な指輪だ。どんな命令でもってことは、あんなことやこんなことも可能だし、死ぬまで戦わせることだってできるだろう。


「では、首輪と手錠を外しますので、奴隷契約は終了となります」


 胡乱気な瞳で少女は俺を見つめる。どこか気恥ずかしかったので俺は目を逸らした。


 少女を連れて外に出る。俺も奴隷の主人らしく振舞わなければならない。


「まずはお前の装備を整える。名前は、何ていうんだ」


「リン」


 リンは俯き加減で顔を隠している。下腹部の奴隷印が見えてしまっているが、装備屋までは我慢してもらおう。


「そうか。俺はクレド。よろしくな」


 そうして、俺は奴隷のリンを手に入れた。

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