本編①

(絶え間なく砂浜に打ち寄せる波の音)


想像してみて。

ここは、海の中。

暖かくて、ちょっとしょっぱい、海の中。

あなたの溶けた意識は、広い海の中を漂っているの。


(コポコポという泡の音が聞こえてくる)


ふわふわ。

ぷかぷか。

あなたの意識は、右に、左に。

ゆ~っくり、ゆ~っくり、漂ってる。

 

海の中は、とても穏やか。

聞こえるのは泡の音。


(シュワ~という泡の音)


安心して。あなたは今、意識だけの存在。

海の中でも、息ができるから、苦しくなることは無いよ。


あなたの意識は、波に漂い、少しずつ沈んでいく。

ゆ~っくり、ゆ~っくり、沈んでいく。


今からあなたを、私の夢の中に招待するね。


(この場面から終盤まで、常に海の泡の音が流れ続ける)


夢って、実は、無意識下で繋がってるんだって。

私たちが普段意識していない領域。そこが、無意識。


私も難しいことはよくわからないんだけど、つまり、私の夢と、あなたの夢は、深いところで繋がっているの。


だから、ほら……見えるでしょ?


沈んでいくあなたの目には、遠くなっていく水面が見える。

太陽の光が差し込んで、レースのカーテンみたいに揺れている。

ひらり、ひらひら。

ゆらり、ゆらゆら。


ぷかりと浮かび上がったのは、白くて柔らかなクラゲ達。

あなたの目の前を、漂ってる。

クラゲには、泳ぐための力がなくて、波に漂いながら暮らしているんだって。


(気泡が浮かび上がる音)


だから、あなたから逃げることはない。

ここは私の夢だから、あなたが刺されることもない。

ただ、あなたと一緒に、波に漂うだけ。

ひらり、ひらひら。

ゆらり、ゆらゆら。


クラゲ達と一緒に、海の中に沈んでいく。

ゆ~っくり、ゆ~っくり、沈んでいく。


(水を叩くような、パシャンという軽い音が一つ)


珊瑚礁が見えてきたね。

色とりどりの珊瑚礁。赤、緑、黄色。

珊瑚礁は、お魚達の住み家だから、色んなお魚達に会えるね。


やってきたのはナンヨウハギ。

青色の体を揺らして、近づいてくる。

あ、ツノダシもやってきた。

黄色と黒の縞模様。とっても可愛いね。


わあ……タツノオトシゴだ。

そっか。タツノオトシゴの結婚式をしてるんだね。

タツノオトシゴはね、結婚する時にダンスをするんだよ。

二匹並んで、ふわふわ泳いで。

向かい合って、くるくる回る。

まるでワルツみたい。


お呼ばれされたお魚達も、タツノオトシゴの周りをくるくる回る。


(バイノーラル録音で、ヒロインの声が頭の周りを回り始める)


カラフルなお魚達が、あなたの周りをくるくる泳ぐ。

右に、左に。

前に、後ろに。

くるくる。くるくる。

お魚が、くるくる泳ぐ。


右に、左に。

前に、うしろに。

くるくる。くるくる。

くるくる。くるくる。


ふふっ。目が回っちゃいそうだね。


(音の回転が止まる)


あなたの体は、更に深く、沈んでいく。

お魚達に見送られて、沈んでいく。

クラゲと一緒に、深く沈んでいく。


水面はすっかり遠くなって、微かに光が見えるだけ。

ふわふわ。ふわふわ。

ゆらゆら。ゆらゆら。


向こうに見えるのは、ウミガメ。

大きいね。私と一緒くらいの身長だよ。

あ、でも、あなたよりは少し小さいかも。


海の中を、泳ぐというよりは、飛ぶみたいに。すぅーっと、あなたのところまで近づいてくる。

ウミガメの目、見たことある?

ねえ、見て見て。大きくて、丸くて、とろ~んとした、眠そうな目。

ウミガメは、あなたを見て、鼻から泡をぷくぷく浮かせる。


(コポコポという泡の音が、一層大きくなる)


ウミガメは、あなたに興味があるみたい。

もしかしたら、クラゲに?

ウミガメは、大きな泡をこぽりと吐き出して、水面へと泳いでいく。

すぅーっと、泳いでいく。


あなたは、ウミガメの後ろ姿を見ながら、ただひたすら沈んでいく。

ウミガメの後ろ姿が遠くなる。

クラゲは波にさらわれて、あなたから離れていく。


水面の光が遠くなる。

沈んでいく。沈んでいく。


(水の音が小さくなるが、止むことはない)


知ってる?海の深さが二百メートルを超えると、深海になるんだって。

深海って、以外と浅いよね。

でもね、二百メートルを超えると、そこには陽の光が入らなくなるの。

あなたが見ている水面の光も、だんだんと小さくなって、小さくなって……

やがて、見えなくなってしまう……


あなたの意識は、暗い海の中。

右に、左に、揺れて漂う。

ふわふわ。ゆらゆら。

ふわふわ。ゆらゆら。

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