黄金に輝くミダスの手

長月瓦礫

黄金に輝くミダスの手


雨に濡れるビジネス街の一角を見ていると、必ずこの話を思い出す。

大雨の中、人々は急ぎ足で歩く。

俺は諦めて喫茶店でコーヒーを飲んでいる。傘を忘れてしまったのだ。



作品の名前は忘れてしまったが、短編集に載っていた作品の一つだったように思う。

あの時は図書室で借りた本をそのまま弟に貸すという蛮行をしていた。

俺が必ず返していたから、気づかれなかったはずだ。


昔、ある強欲な王様が触れたものを金に変える能力を手に入れた。

食べ物や好きなものまで金に変えてしまった王様は、金よりも大事なものがこの世にあることを知る。

大切なものはお金で買えないという教訓のある物語だった。


「これ、王様は金にならなかったのかな」


弟が本を読んで、そんなことを言っていた。

すべてを黄金に変える手でうっかり自分の体に触れてしまうとどうなっていたのか。


「いや、普通にありえそうじゃね?」


うっかり体を触ってしまって、金になったらどうなっていたのか。

自分が黄金になって死んでいたかもしれない。

そうなったら元も子もないじゃないか。


結論は出ないまま、期日を迎えて本を返却した。司書の先生にはバレてないと思う。


物語的にはタブーなんだろうな。

作者もそこまで考えていなかったというか、伝えたいところはそこじゃないんだろうし。


まあ、そんなこと考えてもしょうがない。


強欲はいつだって人を殺してきた。

これだけはまちがいない。


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黄金に輝くミダスの手 長月瓦礫 @debrisbottle00

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