第45話 逆襲 弐

 



「ウチは七海ちゃんのとこに...!」


「あぁ、頼む」


 頭をガリガリと掻きむしる女の隣を通り、雅は倒れている七海の元へと歩みを進める。


 ーーーーーー結局、雅の予想通りだったな。




 ***




「それって、七海ちゃんじゃない.....?」


「「「.......は?」」」


 ファミレスにて、翌日決行の計画を打ち合わせしている最中のこと。

 金髪から聞いた颯汰と陽菜の動向を説明していたら、おもむろにそんなことを雅が言った。


「ソイツら、女の子拉致ってるんでしょ? それって絶対七海ちゃんじゃん!」


「.....いや、舘坂。そう決めつけるのは早計というかなんというか.....」


「そうだぞ!! そんなことあってたまるかよ!」


「舘坂。さすがにそれは無いと.....」


 全員からの総ツッコミを受け、雅は不服そうな表情を浮かべた。


「.....まぁ、そっか。でも可能性はゼロじゃないっしょ」


「.......」


 雅の言う通り、可能性はゼロじゃない。

 しかし。

 ーーーーーーその事実は、あまりにも残酷じゃないか。



「アタシはもう、そいつらのことメチャクチャ疑ってるから。本当に拉致ってたら、マジで殺すから」



「........」




 ***



 雅の予想がなかったら、多分俺はもっと動揺していたし、正気ではいられなかった。

 もしかしたら.....という考えが頭の片隅にあったのが幸いだった。

 ーーーーー俺はまだ、自分を見失っていない。


 とてもじゃないけど冷静にはなれない。

 それでも、冷静に。

 冷静になれ、俺。


 感情のまま動けばコイツらと同じになってしまう。




「………」



 俺は傍らに落ちているハサミを拾い、陽菜へと近づく。


「クソ...野郎.....!! こっち来んじゃ」


 勢いに任せ陽菜の髪を掴み、振り回す。


「何、すんだ!! ぶっ殺すぞ!!! 触んなよ!!!!!」


 抵抗する陽菜をよそに。



 俺は陽菜の髪にハサミを入れた。



「あああああああぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!!! やめっ、やめろおおおぉぉおおおおお!!!!!!! 」


 小屋に響く絶叫。


 でも、

 縦横無尽にハサミを入れ、ザクザクと切っていく。

 地面に落ちる長く綺麗に手入れされた髪。

 なんでこんな奴に、こんな綺麗なものが生えてんだよ。

 .....いらない。



「もう.....やめっ、やめて.......!!!」


「.........」


 やめてと言って、お前はやめなかったろ?

 だから味わわせてやるよ。

 抵抗なんて意味なくなるほどの苦痛を。


「もう.....やめてください.....! お願いします.....!!」


 ボロボロと涙を零し土下座の体勢をとる陽菜。

 いやいや、泣くとかそんなのどうでもいいんだって。

 思いっきり髪を引っ張り、頭を地面に叩きつける。



 ーーーーーーこれはだ。



 七海がされたであろうこと。


 俺の粗末な想像力では限界はあるけど、近づけることはできる。


 人の痛みを知らない限り、反省も内省も後悔も生まれない。


 だから俺は。


「こんな感じ、かな」


「っ.....! うっ」


 脇腹に蹴りを入れてみたものの力の加減が分からない。

 七海の傷を見るに、かなりの力で暴行をしていたようだから、もっと力を入れてみても良さそう。


「こう?」


 足を振りかぶり、蹴りあげるイメージ。


「っ!!!! 痛いっ、痛い.....!!!」


 痛がってる。

 良さげだ。


「なんで.....、こんな.....」


「ん?」


「あたしは.....、あんたの元カノ...だよ、なんでここまで.....出来るの.....」



 あー.....。

 そっかそっか。


 そうだった。



 この人、俺の『元カノ』だった。




 七海に気を囚われていて忘れていたけれど、俺もコイツに遊ばれていたんだった。


 LINE晒されて、笑いものにされて。


 学校来んな、とか色々言われていたなぁ。


 なんだ。




 七海だけじゃなくて、俺も被害者だ。




「あぐっ.......!」



 頭を踏んで地面に顔面を擦り付ける。


 俺の傷付いた心は何をすれば晴れるんだろう。


 とりあえず、こんな暴力じゃ全然満足しない。



 コイツらは何が楽しくて、人を貶めたり、殴ったり、尊厳を踏みにじったりしてたんだ?



「全っ然、分かんないし、何なら分かりたくもないねぇ!!!!」


「あばぁっ!」


 ダンダンと足を踏みおろし、顔面を圧迫する。

 衝撃で鼻血でも出たのか、地面に数滴ポタポタと血が垂れた。



 あーーーーーーーー。



「七海はクスリも打たれてたんだっけ?」



「うっ...うっ、グズ」



「クスリを、打たれてたんだっけ?」



 髪を鷲掴みにし、再度問いかける。


 だから、泣くという行為に意味は無いんだって。


 泣けば許されるとか、泣けば同情を買えるとか、もうそんなレベルは超えている。


 お前達は超えちゃってんだよ。



「クスリ.....クスリ、打ちましたぁ.....。打ちました.....」





「そっか、じゃあ陽菜も打とう」



「いやぁぁぁぁぁぁあああ!!! それだけは本当に嫌!!!!!! やめて、やめて、やめて、やめて!!!!!!」




 コイツ.....中々に頭が悪いな。


 七海がされたことを再現していくっつってんのに。



 自分がされて嫌なことは他人にするなっての。



 まぁ、言って分からないだろうから、実際に体感させないと。



「注射器.....注射器.....」



「うっ、うっ、もう.....やめ.......!」



「.......使い終わった注射器やつしかないか」



 仕方ない。



「使い終わったやつでいいか」



「っ!!!」



 不衛生な環境というのも体感させないと。



 そこら辺の注射器を掴み、抵抗する陽菜の腕めがけて刺す刺す刺す。


「っ! っ! っ! いや!!! いやぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!! 痛い!痛い!痛いよぉ!!」




 血管に空気を入れたら死んでしまうので、ピストン部分を押さないように気をつけてっと。



 刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す。





「っ! あっ.........、う.........」



 抵抗していたのも束の間、次第に力が抜け、なされるがままに注射器を受け入れている。

 鮮血が至る所から流れる。

 出血多量で死ぬことはないかと思うけど。



 まぁ、は無くなったようだ。



「いやぁっ、嫌だ。こんなァ.....」




 まぁ、陽菜はこんなとこで。



 次は蒼汰とかいう男。

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