第24話 塚原陽菜の退屈

 


 最近、面白そうなを見つけた。


 同じクラスになった時から目をつけていた。


 私を見るときのあの視線。


 最初は他の有象無象と同じように感じたけど、どこか違う。


 視線……の質?とでもいうのかな。


 よく分からないけど、まぁ、いい。


 もう私はだった。


 新しいおもちゃで遊びたくて仕方がなかった。


 もちろんおもちゃのストックはあるし、遊んでいるおもちゃもある。


 でもやっぱり…………。



「……刺激って欲しいよね♪」



 夕暮れの綺麗な帰り道。


 私は一人の男子にLINEを送った。




『話したいことがあります』




 ***




 余裕。


 クラスの佐々木……なんだっけ?


 まぁいいや、その佐々木なんちゃらと付き合った。


 告白の時から童貞丸出しで可愛かったなぁ…………。


「絶対幸せにして見せる!とか、笑わせんなっつーの……」


 幸せにして。


 私を楽しませて。



 ***



 今日は佐々木との初めてのデートだった。


 一緒に帰るのはキモかったからずっと拒否っていたけど、私もこいつのが欲しい。


 休日がつぶれるのは痛いけど、仕方ない。


 我慢も時には必要。かな。



「ごめーん、遅くなっちゃったよ」


「いや、全然大丈夫! それじゃ、いこっか!!」


 緊張してる。


 面白ーい。


 女経験とかマジでないんだろうな。


 これまで、きっと誰からもあてにされない、平凡な人生だったんだ。


 でも安心して。


 道端の雑草にも夢を見る権利はあるから。


 今日の私はどこから見ても完全完璧。


 コイツの好きそうな清楚な格好で固めてきた。


 隣を歩けるだけ幸せと思え。


「今日はどこに行くの?」


「……あぁ、今日ね! 今日は俺、デートプラン考えてきたんだ!


 ……だからそれを教えろよ。


 馬鹿なの?コイツは。


 会話も成り立たせられないとか笑わせんなよ。


 キョドっているところでも録音しておくか。


 ポケットのスマホで何回か音声をとりながら目的地へ向かった。


「ここなんだけど……」


 あぁ……パンケーキね。


 まぁ、コイツならここが限界かな。


 とりあえず……。


「うわ~、おいしそ~~!!」


 私のリアクションを見て、どこか安心したような表情を見せる佐々木。


 真に受けんなよ。


 女の挙動なんて9割演技なんだからさ。


 ***



 そのあとは映画、またまたカフェ、そんで公園に来た。


 外も暗くなってきた。


 多分ここいらでお開きかなー。


 ってか、もう帰りたいし。


 あるあるのデートコースでつまんないし。


 あんまり面白くなかったし。


 人選をミスった?


 なんか普通で……。



「あの塚原さん……」


「……ん、どうしたの?」


「名前で呼んでいい………?」


 うわ、キモ。


 早速彼女面。


 これは録音。


「……何で急に?」


「いやあの……さすがにさ、付き合っているから…………」


「でもあたし……、名字で呼ばれる方が…………」


「そっか……」


 あぁ。


 コイツもしかして。


 今日1日色々我慢してた?


 だったら……。


「でもさ、佐々木君が好きなように……していいよ」


「っ! じゃあ、名前……がいいな!!」


 ここ切り取ろ。


 私は嫌だったけど仕方なく……という感じで。


 真壁たちに共有すれば一瞬。


 きっとクラスの先導もしてくれる、かな。


「あの…………陽菜」


 うわもうほんとキモい。


 早く社会的に殺したいなぁ。


「あのさ……?」


 今度は何?


「手……つないでいい?」


 マジで無理マジで無理マジで無理。


 いや、ほんとに無理。


 コイツ何言ってんの?


 ほんとにキモいんだけど。


「いや……あのまだ早いかなって……」


「あぁ、うん。そうだよねっ! いや、本当にごめん……」


 ここも切り抜き。


 この世界の人はぜーんぶ私の味方。


 私がリンゴだと言えばそれはすべてリンゴになるし、協力しろと言えば絶対に協力する。



 なぜなら。



 だから。



「今日はありがとう……、本当に楽しかったよ」



 そういって、佐々木は帰っていった。


 はぁ。


 マジで疲れた。


 公園の芝生の奥の方。


 死角に入りタバコに火をつける。



 あー。



 今日で1番楽しい時間。


 タバコの方が昼間食べたパンケーキの100倍美味しい。


「ふぅ…………」


 ……さて、どうしようかな。


 今日の録音を使うのもいいし。


 あることないことでっちあげてもいい。


 なんでもいいんだけど、は………。


 一息ついたところで、LINEの通知音が鳴る。



 ……佐々木からだ。


 本当に気持ち悪い。


 早すぎ。



 ***



『今日はほんとにありがとう、陽菜』

『とても楽しかった!!』

『また今度も行こう』

『今度は手をつないでもいい?』



 ***



「もう懲りろよ……」



 いや。



 ちょっと待って。




 ――――――を使うか?



『え~~~どうしようかなぁ』




『お願い!』

『お願いします!!』




『可愛くお願いしてくれたらいいよ笑』




『えーマジか笑』

『お願いにゃん!!』

『陽菜ちゃん、お願いお願いお願いしますm(__)m』


「ふっ………コイツまじかよ」



 これは使



 スマホをポケットにしまい、最後の一吸い。




 吸殻を捨て、芝生を後にする。



 方針は固まった。



 まずはを整える、かな。






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