第15話 美少女+非行=テンプレ

 商店街を抜け、駅前通りへと陽菜は向かった。

 後ろをついていく身としても、少しばかり緊張感が走る。

 行き当たりばったりな尾行であるため、そのまま家に帰ってしまう可能性も大いにある。


「こっち方面って、塚原の家があるのか?」


「分からん」


「……いや、元カノだろ? 家に行ったりってのも全く無かったのか?」


「全く無かった」


「…………かわいそう」


 いや本当に考えれば考えるほど何で付き合ったんだろうな。

 俺は普通に嬉しかったし楽しかったけど。

 初めての彼女だったし………。


「はぁ……」


 やばい。

 テンションが下がってきたぞ。

 好きだった時間があるだけに、なかなかにしんどい。

 そりゃそうだよ。

 人の心って簡単に割り切れるほど単純じゃない。

 もしかしたら、認めたくはないが、俺も心のどこかでまだ彼女を思っているのかもしれない。


「陽菜にとっては遊びでも、俺は本気だったんだ」


「……同情するよ」


 しかし。

 この復讐は絶対に完遂させなければならない。

 もてあそんではいけないものを、軽々しくもてあそんだ報いは必ず受けてもらう。


「…………陽菜には、反省してもらうさ。っと………」


 陽菜に動きがあった。

 キョロキョロと周りをしきりに見ている。

 何かを警戒している―――――?


「怪しいな」


「あぁ」


 駅の構内を抜け、反対側へ抜ける。

 電車やバスは使わないのか?

 家に帰るわけではなさそうだけど……。


 そのまま反対側から駅を出て再び街中へ。

 しかし。

 先ほどまでと明らかに様子がおかしい。


 何度も何度も周りを見て、小走りで進んでいく。

 こうなると尾行も大変だ。

 俺らも尾行がバレないように警戒しながら、絶妙な感覚を保たなければならない。


「人通りが………」


「少なくなってきたね」


 駅の向こうは裏通りで、駅前よりも人通りは少ない。

 その上さらに陽菜は路地裏へと歩みを進めている。

 いや、もう怪しすぎでしょ……。


 まさか本当にクスリ関係か……?


「小道に入ったぞ」


「………行こう」


 建物と建物の間。

 そこに陽菜は入っていった。


 尾行を始めた段階で分かりきっていたことだけど、今俺らはリスクモリモリの方法をしている。

 それは重々承知だ。

 しかし、それに見合うリターンも必ずある。


 人一人入れるくらいの隙間を縫い、奥へと進んでいく。

 向こう側に何があるかは分からないが、まぁ、もしもバレたらストーキングしていたことにしよう。

 好感度等はもうすでに地に落ちている。

 失うものは何もない。


「っと…………」


「何か、聞こえる」


 どうやら建物の間にちょっとしたスペースがある。

 そこからボソボソとこもった声が聞こえる。


「~~~~~~~~」


「~~~~~~」


 何か喋ってんな………。


「塚原、誰かといるのか?」


「そのようだけど…………」


 足音を殺して近づき、壁越しに会話を聞く。

 すると、不意に。

 とあるがした。


「太一」


「……タバコだ」


 恐る恐る壁の向こう側へと視線を移す。

 すると二人の人影が見える。

 一人は陽菜。

 そしてもう一人。

 大きなシルエットの学ラン姿。

 多分この辺で学ランの学校は工業だけだった、と思う。

 工業の生徒か?

 目を凝らしてよく見ると、二人とも手に細い筒状のものをもち、時折口へ運んでいる。



 …………喫煙か。



「……佐々木」


「……もちろん」


 スマホを取り出し、無音カメラで一枚二枚と隠れながら写真を撮る。

 学園のマドンナの裏の顔。

 放課後、他校のヤンキーとつるみ、タバコをふかす。

 これ以上ないネタかもしれない。


「そんでさ、例の奴どうなんだよ」


「………!」


 二人はしばらく黙って喫煙に興じていたが、相手の男が口を開く。


「…………全然ダメ。今日も来てた」


「そろそろ実力行使か?」


「クラスの奴を使ってけしかけたり、直接脅したけどダメ。本当にキモい」


「お前でもキビシイことはあるんだな」


 話している内容な間違いなく俺のことだろう。

 他校の奴にも知れ渡っているのか?

 いや、まぁそうか。

 俺のLINEいろいろなとこで拡散されていたもんなぁ……。


「佐々木……なんちゃらだっけか。奴をおもちゃにしたな。陽菜」


「本当めんどくさいよ、実際。こんなことならよかった。知らぬが仏」


 聞かなきゃよかった……?

 どういうことだ?


「まぁ、力業ならいつものように俺らに任せとけな。そろそろ必要になってきたんじゃないか?」


「他に手がなくなったら呼ぶ。まだコマはあるから。明日はそれを使うよ」


 深く息を吸い、陽菜は真っ白の煙を吐き出した。


「蒼汰も警戒しといて。あたしとの繋がりがバレるとめんどくさい」


「分かっている」


 タバコが終わりそうな空気感。


「…………(行くぞ)」


 目線で太一に合図を送り、俺らは路地からそそくさと出ていく。

 決定的な写真も撮れたし、あまり無理をしない方がいい。

 リスク以上のものは得た。



 ***



「ふぅ…………」


「疲れたぁ……!」


 ツカツカと早歩きで駅構内まで一気に戻ってきた。

 冬なのに体が火照り、じんわりと額に汗がにじんでいる


「これでハッキリしたな。佐々木」


「ん?」


「塚原は裏がある。タバコも吸っている。これを公表すれば終わりだ!」


 どうだ。と言わんばかりに小鼻を広げて話す太一。

 まぁ、確かにその通りなんだけど……。


「俺はちょっとだけ不安要素が増えた」


「えっ? いやいや、なんでだよ」


「………まぁ、歩きながら話そう」





 ――――――駅に向かっている間に考えていた。

 先ほどの陽菜の発言と相手の男のことを。



 ずっと頭の片隅にあった違和感が、少しずつ溶けていく。

 それは、陽菜の目的。


 目的に関してはずっと分からなかった。

 俺をおもちゃにしたかった、と太一は言ってたけど、俺はそれだけではないと思っていた。





『……学校に来ないでくれるかしら』

『……全然ダメ、今日も来てたよ』



 陽菜に脅されたとき、そして先ほどの彼女のセリフ。


 ――――――彼女は俺を学校から遠ざけている。


 そして、陽菜の背後にあるのは不良高校との繋がり。

 クスリが関係しているのかは分からなかったけど、よくない繋がりがあることは確認できた。

 そして。

 陽菜のいつでも、俺への実力行使にでれるということ。

 つまりは――――――暴力だ。



 工業の生徒を使い、殴る蹴るなりして、俺を再起不能にでもするのだろう。

 それらが意味するのは…………。


「塚原、お前のことを誰かに聞いたんじゃないか?」


 ここまで話したところで、唐突に太一がそんなことを言った。

 俺のこと………。


「過去……、のこととか……かな」


 重ねて言うが、俺は隣の市から高校に通っている。

 高校の人間からしたら、俺と太一は素性の知れない存在であることに他ならない。


「中学の時のこととか」


「あぁー…………なるほどな」


 ふぅむ。

 全貌が見えてきたような気がする。


 陽菜は暴力さえ厭わない手段で俺を排除しようとしている。LINEを晒したのもそれが目的だろう。

 同時に警戒もしている。

 いや、警戒しているからこそ、俺を排除したいのか?

 太一の言う通り、俺のを知っている?

 俺が過去に何をしたのか。

 本当はどういう人間か。


「あーーー………」


 睡眠不足の頭では思考がまとまらない。


「まぁ、まずは外野からだろ? 雅も動いて……」


 太一が言いかけたところで、LINEの通知音。

 スマホの画面を太一と共に覗き込む。


「おぉ、ジャストタイミング」


「……だな」


 LINEの相手は雅だった。



『いつでもいいよぉー』



 とただそれだけ。


 さすが、仕事が早いギャルだ。


 俺は『頼んだ』とだけ入力した。

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