第8話 12月1日

12月1日。

 今年ももう年の瀬に突入。

 寒々しい季節だ。

 しかし、学校へ向かった俺を待ち受けていたのは、更に寒々しい光景だった。


「(うわー...)」


 様々な色のマジックペンで好き放題書かれた俺の机。

 とりあえずでっかく「死ね!」「カス!」「帰れ!」と書いてある。

 周りを見ると、俺の様子を見ながらクスクスと笑い合う男女のグループが。


 ほう.....?

 どうやらついに実力行使で来たようだ。

 敵さんも本腰を入れて俺という異端者を排除しにきたらしい。

 今度はアレか?

 トイレの個室で上から水をぶっかけられるとか?

 上履きに画鋲か.....?


 うーむ、と考えながら色々と書かれた机に座る。


「キモっ!!」とか何か聞こえたが、別に気にしない。

 何故ならば。




 ———————種はもう、蒔いてある。




 ふと、時計を見た。

 針は8時15分を指している。



 早ければ今日、放課後だな。




 種が芽吹くのは。




 ***




 放課後。

 結局今日は机だけだった。

 水をかけられることも靴に画鋲が入っていることも無かった。


 うーぬ。

 正直、生ぬるい。

 生ぬるいと感じてしまうのも、経験故の性か。



 塚原陽菜は今日一日不機嫌そうだった。

 まぁ、それもそうか。

 あれだけ脅迫したのに、何食わぬ顔で俺が学校へ来ちゃっているからねぇ。





 チラリと、とある男子グループを一瞥する。



 阿部亮。

 酒井葵。

 吉井健太。

 藤井辰樹。


 クラスでも派手な部類に入り、常にカースト上位の女とつるんでいる連中。

 普段こそは関わりもなく、別に俺と交わることは無かった。

 でもコイツら、周りに流されるからなぁ。

 俺のLINE流出に過剰に反応し、クラスにアンチ佐々木の雰囲気を作り出した張本人達とも言える。



 挙句の果てに、俺への嫌がらせは多分コイツらが首謀だ。


 ファミレスでのLINEしかり、今朝の机しかり。

 ゲラゲラ笑いながら俺の机に落書きしてる様を想像すると、思わず殺したくなるが、それは



 適材適所。

 餅を買うなら餅屋だ。



「マックにでもよってかえろーぜ」


「おう、よるべよるべ」



 おっと……。

 どうやら帰るみたい。


 各々が自分のカバンをもち、廊下へ。


 俺もおいてかれないようにしなきゃな。




 俺はかろうじて奴らの姿が見えるくらいの距離で、後ろからついて行った。







「あれ、誰だ?」


「見たことない制服」



 不意に。


 校門付近に誰かが立っている。

 俺を含め奴らも話題に出しているであろう人物。

 背丈は中学生くらいでブレザーを着崩した姿をしている。

 髪は黒髪だがスーパーサ〇ヤ人くらいツンツンに逆立っていて、正直ダサい。



 と。



「お前ら」



 俺の目の前を歩いている奴らに、にツンツン頭は話しかけた。



「2-A組の阿部亮、酒井葵、吉井健太、藤井辰樹って知っているか?」




「俺らだけど、誰だよお前」


「中坊か?」


「何で俺らのこと知ってんだよ」




 こいつらの反応……!

 よっしゃ、ビンゴ!!



 こいつらはのことを知らない!





 俺の唯一の心配点はそこだった。





 俺の地元では、阿久津の姿を見た時点で警戒するか、逃げ出す。




 ――――――――こいつらは何も知らない。





「あのふざけた電話はお前らか……?」




「はぁ? 電話って何のことだよ」


「どけよ、チビ」


 肩で阿久津のことを押しやり、阿部たちは先へ進もうとする。


 が。


 そんなことを許すほど甘い相手ではない。




「やっぱり、てめぇらだったようだな」


 ギリギリと歯を食いしばる阿久津。


「だから、しらねーっつーの!!!」


「こいつ、めんどいからちょっとボコるべ?」


「葵、校舎裏だ、校舎裏」


「コーコーセイの恐ろしさを味わわせてやるよ」


 ぎゃはぎゃはと笑いながら、阿久津と奴らは、校舎裏へと消えてゆく。



 俺は引き続き、後ろから追ってゆく。




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