Lv.5「今日は棘下筋を、さわります」




(放課後、誰もいない教室。

 部活の生徒の声が、遠くに聞こえる)


「今日は、棘下筋きょっかきんをさわります」


「もうオブラートなんて、いらないでしょ。

 さ! さわりまーす、後ろ向いてくださーい」


肩甲骨けんこうこつには、肩甲棘けんこうきょくっていう……なんか高い壁みたいなのがあってね。

 ……あー、そうそう。進撃のなんちゃらに出てくるような壁、壁」


「棘下筋はその壁の下についてまーす。

 さわりまーす」


「わっ、びくんってなった!

 痛いの? ゴメンゴメン、もっとやさしく触る」


「わ~、すごい。筋肉の線維、スッッッゴイ感じる」


「のけぞるほど、痛いんだ?

 痛いけど気持ちいい? じゃ、ここは?」


(のけぞった反動で、ガタンと椅子が鳴る)

「あはは、そんなにっ?!

 ゴメンゴメン、もうわきの後ろは触んないから」


「いいな~棘下筋きょっかきん、永遠にさわってられる。

 すごいすごい、今まででいちばん、線維感がスゴイ……!」


「わきの後ろ側を通って、腕に向かって集束して……

 あ~すごいよ。筋肉さわったー!って感じ」


「え、交代?

 ……ま、いっか。肩だし。

 ハイ、どーぞ」


(ガタ、と椅子を鳴らして座る)

「……ゎ、わ、ほんとこれ、なんかクるね。

 あ、痛い、けど、気持ちいい……!!」


「んっ、あ……なんか、だんだんヨくなってきた……

 あー……マッサージチェアに座ってる気分……

 やっぱキミ、マッサージの才能あると思うよー……」


「そー。

 棘下筋きょっかきんは、肩甲骨けんこうこつからわきの後ろを通って上腕骨じょうわんこつに付いてて……

 きゃ、ひぁっ!」


(ガタッと椅子が鳴る)

「ちょ、わきは、やめてっ……!! あ、ダメっ……! や、くすぐ、ったい……!

 や、もっ……ダメって!」


(主人公が息を切らす)

「はぁ、はぁ……」


「もう、調子のりすぎ!

 ……って、アタシが先にやったのか! それはマジゴメンだけどさ……!

 お……お嫁に行けなくなったらどーすんの?」


「せ、責任とるって……そんな無責任なこと言うなっ」


「……ふんっ」


「……謝っても、むり」


「…………駅前のたこ焼きおごってくれるなら、ゆるす」


「むぅうう……!

 ギリだからね! 今日はギリ、ゆるすだけだからねっ」


「……あー、なんかでも、ほぐれたな……」






 Lv.5 棘下筋 Clear!!!

       Next ➠ Lv.6 前脛骨筋

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る