第3話 所詮スライムだから

俺達はアルグスの町の北門からレベルアップのために、はじまりの草原(魔王領)に飛び出していった。




目の前には広大な草原が広がっている。見渡す限りの黄緑色で、ずっと遠くまでこの光景は続いているようだ。




今現在は昼間だ。体感気温も丁度いい。おそらく、リアルの世界とこの世界の時間軸や気候は異なったものなのだろう。




周囲に人の姿は見えない。深夜なので当然と言えば当然なのだが、まだ町からでていない人も多いようだ。




とりあえず俺はメニュー画面を呼び出した後、『マップ詳細』をタップした。すると先程と同じように三つの項目が出てきた。




ーーーーー




【はじまりの草原(魔王領)】


・出現モンスター


・?????


・詳細




ーーーーー




先程と異なり、タップできない項目があった。おそらく、レベルを上げたり、スキルを獲得したりすると見れるようになるのだろう。




「とりあえず戦闘する前にお互いのスキルでも確認しておく?」


「そうだね」




俺達のような魔族は人間族とは異なり、初期からスキルを獲得している。戦闘においてスキルは多大な影響を及ぼす。SPを消費する代わりに大きな技を放ったり、バフをかけたり。まあ色々できるというわけだ。




「まずは俺からだな。こうやって共有化をかけて・・・と」




ケルトはメニュー画面を俺に向かってスライドさせ、自身のステータスを見せてきた。普通は他人のメニュー画面を確認する事は不可能なのだが、共有化をかければ可能になる。




ーーーーー




ケルト 鬼族




レベル:1


二つ名:なし


体力:15


攻撃力:25


防御力:8


素早さ:10


魔力:3


MP:5


SP:30




スキル:叩き潰し《プレス》、早熟




ーーーーー




「攻撃力とSPが異常に高いな!」




レベル1のステータスの平均は10であり、その後レベルが1上がるごとに5ずつ上昇していくのだ。つまり、ケルトの攻撃力はレベル4並み。SPはレベル5並みであるということになる。昨日公式ページを見た時にはそう書いてあった。




それにスキルが2つ生えている。これはバグか?




「『叩き潰し《プレス》』は初期スキルだよな。この『早熟』ってのは何なんだろう?」


「さあな?まあでも貰えるものは全部貰っとけばいいってことよ!」


「まあそうだよね」




『早熟』は通常よりも2倍のスピードでレベルアップが可能らしい。有用そうなスキルなのでラッキーだったと思っておこう。




「じゃあ次は俺だね」




俺はメニュー画面から『ステータス』をタップし、共有化をかけてケルトの方へとスライドさせた。




ーーーーー




イングスト 悪魔族




レベル:1


二つ名:なし


体力:10


攻撃力:7


防御力:7


素早さ:12


魔力:30


MP:20


SP:15




スキル:魂喰らい《ソウルイート》、早熟




ーーーーー




「イングストは魔法使い型みたいだな」




俺は攻撃力や防御力が低い代わりに、魔力の数値がバカみたいに高かった。これは素直に嬉しい。俺は正直近接戦闘をしたくなかった。理由は怖いからだ。いじめられていた時を思い出して、震えてしまいそうになる自信があった。




そういえば名前が変わっていた。設定した覚えはないのだが、ゲームが勝手に認識したのか?まあ便利だからいいけど。




そして俺もスキルを2つ所持していた。この『早熟』はログインボーナスのようなものなのだろうか。そう考えるとあまり得した気分になれない。




「お互いのスキルも確認したし、初戦闘といきますか」


「了解」




この草原には全部で3体の魔物がいる。ちなみに魔族プレイヤーだからといって魔物に襲われないということはない。魔族と魔物は区別して考えなければならないようだ。




ちなみに3体とも大したことはない。唯一『人喰いマンドレーク』のみ厄介らしい(公式ホームページ参照)が、敵のレベルも高くて5なので多分いける。




「おっ!スライムじゃねえか」




そうこうしているとスライムを見つけた。スライムはこのゲームで最も弱い敵キャラだ。下手したら素手でも勝てる。ただ、流石に素手で行くのはナンセンスなので事前に町で買っておいた装備で挑むことにした。




俺は剣。木の剣だ。斬るというより殴るが正解な武器ではあるが、スライムくらいなら余裕である。しかし、俺の適正は杖だったので後で買いなおさねばならない。事前に確認しなかった俺がアホなのだが。




ケルトも木の剣だ。こちらも適性はハンマーだったので買いなおさねばならない。まあ、木の剣でも殴れるには殴れるけどね?




スライムは2体いる。どちらも臨戦態勢に入っているようだ。




「スキル使ってもいい?」


「構わないぜ!俺も使おうかな?」




スキル使用の許可が下りたので早速使ってみるとする。




「『魂喰らい《ソウルイート》』!」




俺は木剣を腰に突き刺し、右手を前に突き出してスキル名を叫んだ。すると紫色の光線がゆっくりとスライムに近づいて触れた。光線に触れたスライムは一瞬で息絶えてしまった。ちなみに消費SPは2である。




「え?一撃?」


「まあスライムだしな。俺も行くぜ!『叩き潰し《プレス》』!」




スライムの方へ一気に近づき、木剣を振り上げて勢いよく振り落とした。落とされた木剣はスライムを叩き潰し、地面に小さなくぼみを作った。くぼみにはスライムの姿が跡形もなくなっていた。




「あれ?こいつら・・・弱くね?」


「まあスライムだし」




たったの15秒で戦闘が終わってしまった。思っていたよりも簡単に倒せたのでびっくりだ。正直もっと難しいと思っていたので興ざめだが、まあ所詮スライムだし。




そんな感じに1人3匹程スライムを倒したところでレベルアップの予告がきた。どうやらレベルアップは自動ではなく、手動で行われるらしい。




これで強敵との戦闘中にレベルアップして逆転するみたいな流れが出来ないわけだ。厨二病としてはいささか残念な仕様だが、文句は言えまい。




メニュー画面から『レベルアップ』の項目をタップ。条件を満たしているので、『GO』のボタンが押せるようになっている。早速俺達はレベルアップを行うことにした。




特になんの変化も起こることはなく、3秒後くらいに『終了しました』の文字が浮かび上がってきた。




レベルアップした俺のステータスはこんな感じだ。




ーーーーー




イングスト 悪魔族




レベル:2


二つ名:なし


体力:10→15


攻撃力:7→12


守備力:7→12


素早さ:12→17


魔力:30→35


MP:20→25


SP:15→20




スキル:魂喰らい《ソウルイート》、早熟


魔法:火炎球ファイアボール




ーーーーー




今回は新しく魔法を習得する事ができた。ちなみに、魔法が習得できるかどうかはその時その時の運らしい。さらにどんな魔法が手に入るのかも運なのだ。魔法やスキルは運が大きく関わってくる要素なのである。




今回からお互いのステータスを見せ合うのはやめた。流石にこのペースでレベルアップはしないだろうが、いちいち見せ合っていると時間が勿体ない。よって各自次のマップに行く前に見せ合うことにした。その方が効率が段違いである。




その後も俺達はひたすらにスライムを狩り続け、気が付けばお互いのレベルは3になっていた。


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