第7話未来へ続く鳥居

「こ、この鳥居は……一体?」


 わしは少々朦朧とした頭で、辺りを見回しながら色とりどりの鳥居が作った不思議な空間を歩いていた。


 一般的な赤は勿論、青・黄・緑……


 果ては空間に溶け込んでいると錯角させるような黒まである。


 無論、この光景が夢であるくらい、わしには分かっておった。


 だが、潜らずにはいられず、気付けば既に真ん中辺りー憶測だがーまで歩んでおる。


 聞き覚えのある声に導かれて、その正体が知りたくなったというもの、理由の1つだ。


「このけったいな鳥居、一体何所に縛っておる」


 わしが不信に思い、顔を顰めて不満を吐く。


 すると、何処からか“クスクス”と笑い声が聞こえてきた。


『この鳥居は、君の未来へと続く鳥居(ミチ)』

「未来へ続く道?」

『そう』

「バカな事を申すな、そんなものがあるわけなかろう!」

『そうは言っても、ちゃんと潜っているところは君らしいよ』


“好奇心旺盛な所は、全く変わらない”と言って、謎の声はクスリと笑う。


『君は信じなくてもいい。

でも、今見ている光景は紛れもない真実だ』

「……」

『君は、この鳥居を潜って未来に辿り着き、様々な経験をするんだ。

もう決まっていることだから、恐がらずに前へ進んで』

「待て、おぬしは何者だ!?

わしの心の内を知っているようだが、おぬしの正体を知らんことには」

『正体……

もう見当はついているんじゃない?』


 わしの言葉を遮り、そう言った得体の知れぬ者は、再び笑い

『ほら、着いた!』

と、さも嬉しそうに言葉を付け足す。


 その態度はまるで、この薄暗い空間で1人焦りを感じ、あらぬ抵抗をしておるわしを嘲笑うかのようであった。


 他の人間にはそこまで感じずとも、暫く一緒にいたと思われるわしには、窮屈極まりない


『ねぇ、見て!』

「見て……って、足下に何もないではないか!?」

『あの時代(トキ)楽しめなかった人生を、この世界で楽しんで!』


 その台詞が耳に届いた途端、わしの体がふわりと浮かび、そして一気に落ちていった。


 急に感じた重力が、わしの“ここから今にも逃げ出したい!”という思考と行動を阻む。


 それ故、謎の声が何か話しかけているにも拘わらず、わしは返事が出来なくなった。


『あーあ、ちょっと強引過ぎたかも。

でも、僕も落ち着いたら、直に会いに行くし』


“まぁ、いいか!”という自己完結な得体の知れぬ者の台詞コエと、わしの落下する恐怖に耐えかねた叫び声が、完全に重なり合ったその刹那。


 目が覚めたわしは、見慣れた部屋のベットに、仰向けで寝ておった。


“変な夢を見てしもうた……”と、汗だくになった体をゆっくりと起こし、右腕で脂汗を拭き取ったわしは、気を落ち着かせる為に深い溜め息を吐く。


 その時のわしの脳裏には、あの声の主のことなど、何も覚えておらんかった。


 そんなわしの様子など知る由もない、養母である縹扇ハナダオオギ

「宝君、ちょっと一階 《シタ》に来て!」

と、優しくも凛とした声で呼びつける。


「……今行くから、待っておれ!」


 わしは、彼女に聞こえるように声を張り上げて答えながら、重い体に負担をかけぬよう、ゆっくりと立ち上がった。


 そして、机の上にある携帯を手にし、急いで部屋から出ていく。


“一体、何の用か?”と訝し気に呟きながらも、そこにはこれから起こる出来事に期待を寄せるわしがいた。


お仕舞い(*^_^*)



※令和3(2021)年5月15日~23日0:08作成


Mのお題

令和3(2021)年4月30日

「○○に続く鳥居」

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