第3話 インフィニティ・フェニックス

「どうしてフローベルはあの変な人たちに追われていたの?」


 ある日、巴はフローベルに尋ねてみた。

 ユニコーンは、その美しさから乱獲され、闇オークションで売られるなんて噂はよく聞いていたが、単なる都市伝説だと思っていた。なぜなら、巴がその噂を知った時点で、既にユニコーンは絶滅危惧種となっていたからだ。

 しかし、巴から話題を振られたフローベルは、うつむいてギュッと両手の拳を握りしめる。

 聞いてはいけないことだったのかも、と巴はハッとした。


「ご、ごめん。言いづらかったら無理に言わなくていいよ」


「いや……君も僕に――ユニコーンに関わるなら知っておいたほうがいい」


 フローベルは真剣な表情で語り始めた。

 彼女の曰くところによれば、あの男たちは悪の組織で、やはりユニコーンを捕まえてはオークションに出品したり、何らかの実験をしているらしい。

 その実験に必要だということで、ユニコーンたちは角を狙われているようなのだ。仲間の中には、角を根元から折られて泣いている子供もいたそうだ。


「角なんかのために、私たちユニコーンを乱獲しているアイツら――【インフィニティ・フェニックス】を、私は絶対に許さない……!」


「待って、組織名が絶妙にダサい」


 巴は組織の名前が気になって、他の情報が頭に入ってこなかった。しかし、ひとまずこの組織名は覚えておいたほうが良さそうだ、と心の片隅に留めておくことにした。


 そんな日常を過ごしていた、ある晩のことである。


「ただいま〜……」


 巴がいつものように仕事で疲れ、クタクタになってマンションに帰ってきたが、ドアを開けても部屋の中は真っ暗だった。「おかえり」の言葉も返ってこない。


「フローベル? 寝てるの?」


 しかし、部屋の電灯をつけて、巴は視界に飛び込んできた衝撃的な光景に息を呑んだ。

 部屋の中はめちゃくちゃに荒らされていたのだ。

 フローベルの角が壁を引っ掻いたような、争いの痕跡もあった。あの黒ずくめの男たちの姿が脳裏に浮かぶ。


(アイツらに――インフィニティ・フェニックスにさらわれたんだわ……!)


 この様子では、フローベルは既に拉致され、奴らのアジトかどこかに連れ去られたに違いない。

 しかし、巴にはそのアジトの場所も分からないのだ。


「フローベル……」


 巴は、幸せな生活を突然壊されたことにショックを受けて、部屋の床にへたりこんでしまったのだった。


〈続く〉

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