第2話 ユニコーン娘との生活

「あ〜、今日も疲れたぁ……」


 草薙巴は、仕事を終えてクタクタになりながら、マンションの鍵を開けて、エレベーターに乗り込んだ。

 この二十階建てのマンションはセキュリティのしっかりしたオートロックだ。カードキーを差し込むとロックが解除され、自動ドアが開く仕組みになっている。巴の部屋は十階にある。


「おかえり、トモエ」


 洗濯物を畳みながら自分にほほ笑みかけるフローベルに、巴はやっと仕事で凝り固まった身体の緊張がほどけた気がした。


「ただいま」


 ただいまが言える相手がいるのは、幸せなことだ。

 上京してから十年以上、真っ暗な部屋に帰ってひとりぼっちの夜を過ごしてきた巴は今になってそれを噛み締めている。


「えーん、聞いてよフローベル! またハゲ課長がセクハラしてきた!」


「許せないな。角で一突きしてこようか?」


「死人が出るのはダメです」


「ふふ、冗談だよ。多分ね」


 ふざけて泣きついたら、フローベルが真顔で返してくるものだから、巴は殺傷事件が起きないように彼女をなだめるのが日常になっていた。ユニコーン娘には倫理観がないのか、本当にふざけて言っているのか不明なのが怖いところではあったが、フローベルとの生活はとても楽しい。彼女は巴の愚痴を親身になってよく聞いてくれるし、家事も完璧だ。美味しい手料理に舌鼓を打つと、フローベルは嬉しそうに笑っていた。


 そこへ、一階エントランスのインターホンが鳴る。

 そのインターホンの画面に、宅配便の配達員の姿を見た途端、フローベルは豹変した。


「またお前か! 何の用だ!」


「いや、だからお届けものなんですけど……」


「そんなことを言って、トモエの部屋に入る気なんだろ! トモエに近づくな!」


 ユニコーンの特徴のひとつとして、処女には優しくレディファーストを崩さないが男性に対しては獰猛で怒りっぽいというものがある。


「コラッ、フローベル! ダメでしょ、お兄さんを困らせちゃ!」


「だって、トモエに近寄る男なんて危険だよ!」


「この人は単に配達に来てるだけ! 私に興味なんてないから! っていうか、もしかして今までずっとこうやって宅配便の荷物を受け取ってなかったの!?」


 巴とフローベルの口喧嘩を聞きながら、配達員のお兄さんは苦笑いを浮かべるしかない。結果として、背後でガルルとうなり声を上げるフローベルを抑えながら、巴はなんとか荷物を受け取ったのである。


「トモエは危機感がなさすぎる。僕がトモエを守ってあげないと」


「ナイトを気取るのはいいけど、私があなたを助けたこと忘れてない? あのまま私があの場に来なかったら、あなたはあの変な奴らに捕まってたわよね?」


 騎士のように振る舞うフローベルに、巴は呆れたように笑っていた。

 しかし、それはそれとして自分を大切にしてくれるユニコーン娘に愛おしさを感じていたのである。


〈続く〉

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