第10話


 先ずは、格子紋様ドーマンが少女の中にいる鬼を、某仮面ヒーロー剣の畳ことオリハルコンエレメントの如く攻撃し、その隙に真言を詠唱する。


「――――!!」


「オン・キリキリ、オンキリキリ――――」


 と真言を唱えながら、流れるような動きで剣印、刀印と呼ばれる印を結ぶ。

 真言には小咒、中咒、大咒のように同じ神仏を礼賛するものでも真言の内容や長さが異なるものがある。

 分かり易く砕いていえば、メ〇、メ〇ミ、メ〇ゾーマのようなもので威力や使い勝手が変化すると理解してもらえればそこまで間違いはない。


「――――ノウマクサンマンダ・バサラダンセンダ・マカラシャダソワタヤ・ウンタラタカンマン、ノウマクサラバタタ・ギャテイヤクサラバ・ボケイビャクサラバ・タタラセンダ・マカロシャケンギャキサラバ・ビキナンウンタラタ・カンマン――オンギャクギャクウン」


 不動明王中咒ちゅうしゅ、不動明王大咒だいしゅを唱え転法輪印てんぽうりんいん五鈷印ごこいんと印を組み換え秘仏・大聖歓喜天だいしょうかんぎてんの調伏真言を唱えながら諸天救勅印しょてんきゅちょくいんを結び、最後に外縛印げばくいんと呼ばれる指を絡め組んだような印を結びながら、最後に不動明王中咒を唱える。


「――――ノウマクサンマンダ・バサラダンセン・ダマカラシャダソワタヤ・ウンタラタカンマン! 不動金縛りの術!!」


 約三十数秒近い詠唱を持って調伏術・不動金縛りは発動する。

 神社の注連縄しめなわのような半透明の縄が地面から出現し、少女の躰を緊縛する。


「―――!?」


 これは本来は羂索けんじゃくと呼ばれる鳥獣を捉えるための縄であり、仏教においては独鈷所どっこしょという祭具が一端に取り付けられたもので、悪魔を調伏するのに用いられるとされる。


 近代式符術でも取り入れられた『不動金縛りの術』であるが、近代式符術ではここまで大規模な詠唱は本来しない。

 だが俺の霊力の残量と拘束力を加味すれば、古式に分類されるこの『古式・不動金縛りの術』別名『霊縛法れいばくほう』しか選択肢がなかったのである。


「ふう、何とか拘束できたな……これより鬼を調伏し君を生かす」


 柏手をパン! と打ち周囲の瘴気を散らすと祝詞のりとを上げる。


「原初の混沌は二つに分かれ澄んだ明白な気、すなわち陽気昇りて天と成り、濁りし暗黒の気、即ち陰気下りて地なる。是即これすなわち陰陽、万物形成す根源なりや

 これなる陰陽師、姓は天孫たる桓武かんむ天皇に連なる水薦苅もこもかる信濃しなの桓武平かんむへい氏、同じく天孫たる清和せいわ天皇に連なる東山道、水薦苅もこもかる信濃しなの清和源氏の血脈を継し末裔たる仁科にしな成り、名を祐介。

 つつしんで道教の主神・高上玉皇上帝こうじょうぎょくこうじょうていの孫にして陰陽の主神・泰山府君たいざんふくん冥道の主祭神に申し上げたてまつる――神の威光・神威を持って天孫の血を引きし人たる我を太陽、鬼神たるなんじ月輪がちりんとし服従・使役の盟約を結ばんと願いたてまつる。陽光たる我を受け入れ我に従い我が式と成り給へ急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう


 陰陽道の基本である。陰陽五行説では、男性は陽の気、女性は陰の気を持つとされ、五行も『木』や『火』を陽、『金』や『水』を陰、『土』を半陰半陽としている。のだが、今回の鬼神が如何なる気を帯びた鬼であったとしても、人間である俺を太陽(陽の気)、鬼神である鬼を月(陰の気)と仮定して主従の契約を結ばせる呪術がこの「式神契約の術」である。


「……」


 俺の祝詞のりとを聞き届けると少女は、プツリとまるで糸が切れた操り人形のように意識を失った。


「助けられたはいいものの……一戦を退いた俺には過ぎた式神だ……それに複数人のA級かS級が出張る鬼を禁術ありとはいえほぼ一人で調伏してしまったんだから、人手が足りない協会としては俺に現役復帰しろって言ってくるだろうなぁ~実に面倒だ」


 禁呪や剣術を抜きにすれば俺の実力はC級下位がいい所なのに……


 そんなことを考えていると、体長数メートルはあろうか? という大きな怪鳥の群れが現れた。

 

「協会の式神だな……」


 するとその中の一羽が加速し落ちるようにして迫り来る。

 降りて来たのは、改造した和服のような服を身にまとった美女であった。


 美しい黒髪は前髪はぱつんに切り揃えられており、耳の辺りは尼削ぎと言う平安時代の髪型に似ている。後ろ髪は伸ばされており腰に届く程である。

 アーモンド型の瞳は大きく虎のような薄い茶色をしている。

 服の上からでも分かる。スレンダーな体つきはまるでモデルのようである。


 美女は俺の前身を舐めるように見回すと、ほっとした様子で溜息を付くとこう言った。

 

「祐介大丈夫? 鬼は?」


「ああ、祢々ねねに心配されるほど軟じゃないさ……」


「その犬……」


 祢々ねね兵狗ひょうけんを見ると、俺がどのように鬼を倒した事に気が付いたのだろう。


「そう……封印を破って使ったのね仁科家相伝の秘術・護法影童子召喚ごほうかげどうじしょうかんを……」


「すまん。心配をかけてもらっているのにより心配させる事になってしまって……」


「いいの。祐介がそう言う人だって私は知っているもの……それでその子は?」


 協会に所属する陰陽師として聞きたかったであろう。

 少女……坂上鈴鹿さかがみすずかに付いて尋ねて来た。


「鬼に憑依されても自我を保った鬼憑き……生成りの少女かな?」


 俺の説明に祢々ねねは顔色を青くする。


「――――っ!? て言う事は、極めて優れた巫女……『神霊を降ろし依り憑かせる』玉依姫たまよりひめ玉櫛媛たまくしひめと同じ能力を持った巫覡ふげき……協会でいう媛巫女ひめみこの才能を持っているって事じゃない」


「俺の式神にした」


「はぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!」


 寂れた山間に驚愕した女の声が木霊した。




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TIPS 『式神、識神しきがみ式鬼神しきがみ式王子しきおうじ童子どうじ


陰陽道では式神、識神しきがみ式鬼神しきがみ式王子しきおうじといい。

仏教・修験道系では八瀬やせ童子などと言う。

西洋でいうと使い魔サーヴァントやゴーレム、悪魔、精霊などに類似点がある。


 式神には大きく三つの種類が存在する。


 1つ、この世にいる鬼神・神霊を、使役する『使役式』

 2つ、異界より鬼神や神霊を喚び出し使役する『召喚式』

 3つ、紙や形代に、自分や誰かの呪力を籠める『人造式・思業式神』


 1の中でも蟲毒を行って恨み辛みなど負の念によるものを『蟲毒式』と言い犬神が有名

 1,2の中でも人間に友好的なものを『護法式』と言う。

 1の中でも調伏したものを『悪行罰式神』という。




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『あとがき』


 読んでいただきありがとうございます。

 本日から中編七作を連載開始しております。

 その中から一番評価された作品を連載しようと思っているのでよろしくお願いします。


【中編リンク】https://kakuyomu.jp/users/a2kimasa/collections/16818093076070917291

【次回連載予定作品】のリンク

https://kakuyomu.jp/users/a2kimasa/news/16818093077299783210


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