【悲報】台風接近中なのに後輩ちゃんと部室でイチャイチャしてたら帰れなくなった件

三月菫@錬金術師コミカライズ

第1話 後輩ちゃん、あらわれる

【場所 放送部部室】

 

 ガラッと勢いよく部室のドアが開く音。


「せんぱーい、こーんにーちわー!」

 

 ドタドタとこちらに近寄ってくる足音。


「あー涼しー! 部室にクーラーがあるってほんと最高ですねぇ。外は灼熱地獄ですよ。天気予報だと最高気温が40℃ですって。8月とはいえ異常気象ですよねぇ。ロナウジーニョですかねぇロナウジーニョ。なんか台風も近づいてるらしいし……」


「……え? それを言うならエルニーニョだろって?」


「……」


「細けえこたぁいいんですよ!」


 あなたのすぐそばに後輩が寄ってくる。

 荷物(カバンとビニール袋)をテーブルのうえに置く音。


「はいはい、わたしもソファに座るんで、端っこに寄ってくださーい」


 バフっと勢いよくあなたの隣に座る。


「よいしょっと。あ、アイス買ってきましたけど先輩も食べますー? チョコとバニラがあるんですけど、どっちにしますかー? といいつつ、私は絶対にチョコ派なのでバニラしか渡す気はありませんけど」


「んん……?」


「なんですか? その『やれやれうるさいヤツが来た』みたいな深~いため息は。『せっかくの夏休み。一人静かで優雅に過ごす午後のひと時を邪魔しないでくれ』みたいな、ライトノベルに登場するやれやれ系主人公もかくやというくらいに辛気臭い顔は!」


「ふーん、ムシですか。なるほど、そっちがそういう態度ならこっちにも考えがありますよ」


 更に近づいてくる気配。

 耳元で彼女の声がする。


「ふー!」(耳元で息を吹きかける後輩)


「うぇはははっ。先輩ったら顔真っ赤じゃないですかー! 可愛い後輩ちゃんが急接近してきて照れちゃいましたー? んもー、ちゃんと聞こえてるじゃないですかー。ちゃんと返事してくださいよー」


 後輩、バシバシとあなたの肩を叩く。


「ふっふーん! そんな恨めしげな顔してもダメでーす! だってわたしもう正式に入部したんですから。映えある放送部部員第2号でーす! ドンドンパフパフ!」


「これまで先輩は部員が自分一人だけなのをいいことに、ろくに放送部活動もせずに、クーラー使い放題の部室も、このフカフカで座り心地のいいソファーも、冷蔵庫も電子レンジも液晶テレビもゲーム機も、ぜーんぶ独り占めしてたんですよね」


「でもそんな独裁政権ももうおしまいでーす。これからはワタシがいるんですからね。一人じゃなくて二人なんですからねー! うぇへへへへっ」


「せんぱーい、暗いですよー。そんな辛気臭い顔してたら幸せが逃げていっちゃいますよー。ほらほらスマイル、スマーイル!」


「むー。笑顔が足りないですねー。それなら……」


 後輩の気配が近づく。


「こちょこちょこちょ!」


 後輩に耳元をくすぐられる。


「強制的に笑わせてやる~!」


「うぇひっ。どうやら先輩は耳が弱いようですね。弱点発見です! うぇひひっ。面白い!」


 後輩はしばらく耳をくすぐり続ける。

 やがて手を離し、あなたからやや離れる。


「まー部員同士の親睦を深めるためのスキンシップはこのくらいにしておいて……」


 ガタッと立ち上がる音。


「先輩! さっそく部室の掃除を始めましょうかっ!」


「なんですか? その何言ってんだコイツ的な顔は? あ、さては私の送ったメッセージを見ていませんね? もう、ずっとスマホを片手にいじってるくせに、なんでちゃんと見てくれないかなぁ。ソシャゲの周回なんかより、カワイイ後輩ちゃんからのメッセージの方が100万倍は重要じゃないですか」


「まあ、先輩がそういう人間なのはもうわかってますから、今更いいですけどねー。とにかく、今日は部室を徹底的に掃除しますよ!」


「え? そんなに汚れてないじゃんって? ノンノン。この前ワタシは見たんです。ちっちゃくて、テカテカと黒光りしてて、床をカサカサとうごめくヤツの姿を……うう、思い出しただけでトリハダが……」


 ガサガサガサとビニール袋の中から防虫グッズを取り出して、ダンッと机の上におく音。


「だから! 今日は徹底的に掃除して! バルサン焚いて! 駆逐してやる! 部室からッ! 一匹残らずッ!」


「はい、部員の賛同が過半数に達しましたのでこの法案は可決されました~。え? 過半数だと半分を超えないといけないから、ワタシが賛成してるだけだと半数ではないだろって?」


「……」


「こまけえこたあいいんですよ!」


 急接近して耳をこちょこちょ。


「こちょこちょこちょ!」


***


「はい、というわけで無事、部員全員の賛同が得られましたので、さっそく掃除を始めましょう!」


「あ、その前にせっかく買ってきたアイスが溶けちゃいますから、先に食べちゃいましょうか。はい、バニラです、どーぞ」


「あー、やっぱり熱い夏の日に、クーラーをガンガン効かせた室内で食べるアイスの味は格別ですねぇ。んーおいしー、チョコの甘さがたまらないーん」


「あ、先輩も一口食べます? いいですよー、はいどーぞ」


「あれ、どーしたんですか? スプーンをじっと見つめて固まっちゃって。食べないんですか? チョコのとろけるような甘さが絶品ですよ? どーぞ?」


 後輩に促されておずおずと口にするあなた。

 後輩、耳元で囁くように声を出す。


「間接キス。うぇひっ」


 ガタガタッ! あなたは慌てて大きな音をだす。


「うぇははははっ! 冗談ですよ、ほんとにもー先輩はウブなんだから~」


 ポカっと、後輩の頭を叩く音。


「イテッ! 頭をひっぱたかないでくださいよ~! 可愛らしい後輩ちゃんのちょっとした遊び心じゃないですか~。うう~、DVだ、デートDVだ! 訴えてやる~」


 後輩の声、フェードアウト。






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