第19話 渡したい物


 そしてあっという間に講座は終わり、各自で解散となった。


「はぁ……作り始めたらあっという間だったな」

「……そうだね」


 時間はお昼を過ぎたころの三時。いわゆる「おやつの時間」とも言える時間だ。


 ――本当は今日渡したかったけど……。


 今日は休みの日。つまり、どこでだれとばったり会うかも、見られてしまっているかも知れないという可能性があるという事だ。


 ――それってつまり、学校の人に会うかも知れないって事だもんね。


 なんて思っていると……。


『おい。まさか今日も逃げる気じゃないよな?』


 カバンのすき間から男の子が顔をのぞかせる。


「え、でも。どこでだれが見ているか……」


 正直、私としてはいっこくも早く帰りたい。


『もう! 自分に自信を持って! 簡単に「コレあげる!」でいいんだから!』

『お前が言ったんだぞ? 最悪捨てられてもいいから私も応援したいって』


 ――う。


「で、でも……」


 ――せっかく手伝ってもらったのに。


 確かに、コレは私が自分で決めた事。でもおくびょうでいまひとつふみ出せない。


 ――ああもうこうなったらヤケだ!


「どうした?」


 私は少し先に行って不思議そうに首をかしげている池里くんに「コレ!」とカバンから小さな紙袋を差し出した。


「コレは?」

「あ、あげる!」


「え」

「いらなかったら。す、捨てていいから!」


 なんて言い逃げのごとく池里くんに紙袋を押し付ける様に渡し、私はバタバタとその場を立ち去った――。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


 なんて事があったのがほんの二日前。今回は祝日があったから一日長かった。


「はぁ……」

『すごいため息だな』


「だって……」

『まぁ、あれじゃあ押しつけだったな』


 我ながらもっといい渡し方があったのではないかと思ってしまう。


 ――もっとこう……かわいらいく……とかさ。


 でも、いまさら後悔したって遅い。


『でもちゃんと渡せたんだし!』

『いや、渡した……とは違うだろ』


 なんて追い打ちをかける様に男の子はあきれながら言う。


「うぅ」


 でも、コレに関しては男の子の意見に賛成。なんて思っていた時――。


「ねぇ。池里くんが新しくつけているキーホルダーってさ……」


 ふいにクラスの女子の会話が聞こえ、思わず耳を大きくして聞き耳をたてる。


 ――な、何を話しているんだろう。


「――」

「――」


 その時に聞こえたのは要するに「池里くんがサッカーボール以外のキーホルダーを付けている」という話だった。


「!」


 ――サッカーボール以外のキーホルダーって!


 それを聞いて私は思わず外を見る。でも、話題の本人はグラウンドに広がっている光景はいつもと何も変わらずサッカーをしている……その近くのカバンにはサッカーボールのキーホルダーと私が渡した黄色い鳥のキーホルダーが付いていた。


『あいつ、なかなか面白いな』

「全っ然面白くない」


 なんて男の子と言っていると……ふいに池里くんと目が合った様な気がした。


「……」


 ――いや、合った様な気……じゃない。見ようと思わないとこんなところにいる私と目なんて合わない。だってここ、三階だし。


 そんな事を思っていると、池里くんはいたずらっ子の顔をしている様な気がした。


『うわぁ、確信犯だ!』

「はぁ……」


 そんな女の子の言葉と私の重いため息は、いつもと違う顔を見せた池里くんを見た女子たちの悲鳴にも似た声によってかき消された。


 ――本当、かんべんしてよ。


 なんて思っているけれど、実は何となく変わり始めた学校生活にどこか心躍らせている自分もいて……少し笑ってしまったのだった――。

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ようせいさんのいやし手 黒い猫 @kuroineko

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