追放されたテイマーはもう死にたい。~死に場所を求めた魔境ダンジョンで災厄級のダンジョンボスがテイム出来た~

石の上にも残念

一章

第1話 「……お世話になりました」

「出ていけえ!!!」

狭いパーティールームに響く怒声。

顔を真っ赤にしたカバが吠えている。


カバではない。ゴリラだ。

嘘だ。熊だ。


「何人目だと思ってんだ!」

ゴリラのような毛深い身体に熊のような短い手足が生えたカバ面の男が再び吠える。


「申し訳ない限りで……」

ちょーんと小さくなっているのは、軽鎧の上からでも分かるほど鍛えられた見事な逆三角形の上半身に、がっしりと、しかし、しなやかな長い手足。

赤い髪を短く刈り上げ、目元の涼やかな男だ。


ここは、最近活躍めざましい新鋭冒険者パーティー〖アルディフォン〗が借りているパーティールーム事務所兼会議室


ポニーテールと言うにはボサボサ過ぎる長い髪を振り乱して怒っているカバ面の男が、アルディフォンのリーダー・レイチェル、21歳。

自称〖蒼月のレイチェル〗だ。


対して、レイチェルに罵詈雑言の嵐を浴びせられている、野性と知性の究極合体みたいな男が、アルディフォンで中衛を務めるリュウセイ、18歳。

誰が呼んだか〖不屈のリュウセイ〗。


「「「………」」」

小さくなったリュウセイを冷たい目で睨む3人の男。

脂ぎった肌にニキビ跡が目立つシャイン、21歳。

自称〖虎牙のシャイン〗。


鼻息が荒く目つきが怪しいルーニー、22歳。

自称〖雅炎のルーニー〗。


背が低く舌打ちの多いジェラルド、20歳。

自称〖神算のジェラルド〗。


ちなみに昨日まで、もう1人いた。

まだ仮メンバーだったが。

栗色の髪をお団子にまとめた、可憐なウルフライダーの女性・リノン。


そのリノンから昨日、脱退届けが出された。

原因は、「リュウセイくんと組むのは無理」との事だった。

これで6人目だ。


アルディフォンは最近、メンバーの拡充を図っている。

現在、Cランク中堅層のダンジョンを主戦場としているが、そろそろBランクトップ層に挑みたいからだ。


加入はあった。


1人目は、斥候の素早い動きには邪魔になるんじゃないのか?と言いたくなるような魅惑的な肢体を持ったシーフの女性・エミリー。

能力も高く、美人だっのだが、参加して10日程で、脱退届けを出してしまった。

原因は「リュウセイの顔を見たくない」だった。


2人目は、朗らかな雰囲気のヒーラーの女性で、全身から〖清楚〗のオーラが出ていたミミ。

彼女は気配りが効き、ヒーラーとしての将来性も十分で、とても期待していたのだが、一月半ほどで、脱退届けを出してしまった。

原因は「リュウセイさんと組むには自分は未熟すぎる」との事だった。


3人目以降も似たような感じだ。

4人目のソードダンサー・マリアは、サバサバした男勝りな性格で、男所帯のアルディフォンにもよく馴染んだと思っていたが、2ヶ月経つ前に辞めてしまった。


誰もが早くて10日。

遅くても2ヶ月程で辞めてしまう。

原因は口を揃えて「リュウセイ」。


せっかく、美人な女の子がやって来て、奮発したお店で歓迎会を開いたり、プレゼントとかたくさん贈って、すごくいい感じにニコニコしてくれていたのに、リュウセイのせいで辞めてしまう。


アルディフォンのメンバー4人は怒り心頭で、この度、遂に堪忍袋の緒が切れた。


「もう我慢ならねえ!」

レイチェルが3度怒鳴る。


「大体、お前はテイマーのクセに手駒がいねえ!」

レイチェルからリュウセイが一番気にしていることを言われる。

うぐっと喉に詰まる。


リュウセイのジョブはテイマーだ。

モンスターをテイムし、自分の手駒として多様な場面で活躍するジョブ。

それがテイマー。


しかし、リュウセイはこれまで一度もテイムに成功したことがない。

テイマーの最初のパートナーとして王道の犬っぽいモンスター・モッファンのテイムを何度も試みているのだが、一度も上手くいったことがない。


「チッ、アナタがテイマーとして機能してないせいで、チッ、パーティーの戦略が狭くなってるんですよ? チッ」

舌打ちしながらイライラと口撃してくるのは、パーティーの戦略を担当しているジェラルド。


「テイマーって縛りのせいで、中途半端な距離の槍しか使えないしな」

バリバリと頭をかいて、フッとふけを飛ばすシャイン。


テイマーは剣や斧が使えない。

槍とか、鞭とか、中距離の武器を使う。

剣を振り回し、前衛で攻撃を受け止めるシャインやレイチェルからすると、自分たちの影に隠れてチクチク攻撃するリュウセイの戦い方に思うところがある。


「ぶふっ。新しいメンバーが来ても、ぶふっ。すぐに出ていく原因になる、ぶふっ。ようなヤツとはもう組めない」

フーフーと荒い鼻息を撒き散らすルーニー。


「お前の変わりはすぐに見つかる。とっとと出ていきな」

レイチェルからの最終通告。


「……お世話になりました」

部屋の中で一番高い背を、一番小さく丸めたリュウセイは、泣きそうな顔でとぼとぼとパーティーハウスを後にした。



☆☆☆



とぼとぼと背中を丸めて去っていくリュウセイが出て行き、パタンとドアが閉まる。


「「「「………」」」」

その様を険しい顔で睨みつけていた4人。


「よし! じゃあ呼び戻すぞ!」

レイチェルが快哉を上げる。

「俺はマリアちゃん」

グフっとカエルのように喉を鳴らすシャイン。

「僕はぶふっ。ミミさん」

フーフーと鼻息が荒いルーニー。

「私はリノンですね」

ニチャアと笑うジェラルド。

「俺はエミリーだ」

うねうねと、指が何かを揉みしだくように動くレイチェル。


リュウセイ原因がいなくなった今、彼らは、あの間違いなく自分のことが好きだったに違いない彼女たちが、自分たちの胸に飛び込んで来る様を想像してニヤニヤするのだった。


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