第二十二話 冒険者組合

 ​───というわけで着きました【古都ロート】!



 見渡す限りの人!店!お家!そのどれもが未だ活気に溢れていて、でもどれもが歴史を感じさせる気品がある!温故知新の鑑って言うのかなぁ!

 の名は伊達ではないね!



 『さっきからやけにテンションが高いのう…。』



 そりゃそうだよ!こんなに人の多い所に来た事は私の人生で自体無かったし、其れにラムイー村あそこを出てから丸2日!街道中心に通っていたとはいえ、人間を見たのもひっさびさだもん!



 テンションをあげるなって言う方が無理な話まであるよね!



 『まぁ〜…そうじゃのう…。』



 今までにない上機嫌にモラグは何処かたじろいで、困惑する様な声を上げている。

 モラグでもこんな声出すんだ…。いつも通り『そんなお前も愛そう♥』とか全肯定されるのかと思ってたけど。



 『馬鹿にしとる?』



 いいや全く。



 『まぁそれはさておきじゃ、都会というもんに興奮するのも良いがの、何をするつもりで来たんじゃ?ささっと其れをしにゆくぞ。』



 『時間はあると言ったが、無駄に使えとは言っとらんしの』と、何処か諭すような口調でモラグは続ける。



 取り敢えずは推薦状この用事を済ませようかな。冒険者組合ギルドなら【黒い屍人】の情報がありそうだし…



 『ふむ、冒険者組合。』



 何か知ってるの?と頭の中で聞けば『いや、全く知らん。教えよ。』と返される。



 幸いにも組合施設は門扉ここからもう少し離れた、王城の近く辺りにある様だ。

 だから、そこに行くまでの間に冒険者組合の説明、おさらいをしておこう。





***



 冒険者組合。別名:【ギルド】。


 王都スパルティアの本拠地【アレス】を中心に、アーテナイトを含めた大陸全土にその勢力を頒布させている巨大組織。

 名目上はかの【太陽教会】の下部組織​─────組織の持つ戦力扱いでもあるらしいが、その繋がりは余り濃いとは言えない、あくまでも【冒険者組合】というひとつの組織として認識しておいた方が良いだろう。


 依頼を受け、登録された冒険者を派遣し、報酬を貰う。

 依頼内容は土木から財宝捜索。果てには魔王討伐まで多種多様に及ぶが、【内紛、国家間問わず冒険者は戦争には関与しない】事が唯一絶対の規則ルールとなっている。




 また、冒険者はその実績と実力、そして必要な報酬金に応じてランク分けされており、その区分は、【魔法】の階級と同じ五つ。



 下から数えて、ほぼ力自慢の一般人パンピー程度な【素人】、【見習】、【精鋭】、【熟練】。



そして最上位の、大陸でも片手の指程度しかいない【達人】に分けられる。

 達人に直接依頼しようと思えば、一個人の力を借りる為だけに、国家予算レベルのお金が軽く動いてしまうのだとか…。



 …では、そんな夢に溢れる冒険者になるにはどうするかと言うと、私が今向かっている【冒険者組合】で、自身の名前やその他の情報(使用武器や受けたい依頼内容など)、魔力を冒険者組合の大型記録魔法具メインサーバーに記録させ、そして、大きな街を入ったり、家を買ったりする時の身分証代わりにもなる【冒険者証明証】を発行して貰う必要がある。初回は無料、再発行は銀貨5枚必要だ。


(※ 銀貨は1枚日本円換算で1,000円)



 ちなみに、大型記録魔法具に記録させる情報は偽名でも構わない、ただし、魔力が記録されるために冒険者組合の上位組織である【太陽教会】から王都や他治安維持機関にその魔力の情報が送られる為に、何かを起こした時は、冒険者証明証の再発行どころか、まともに生活することも出来ないらしい。



 それが何でも歓迎している組合ギルドの、荒くれ者に対する対策方法である様なのだが​──────まぁ、【推薦状】を持たない、一般下位冒険者に対する嫌われようを鑑みるに、馬鹿は必ず湧いてしまうという事なのだろう。



 …危険因子を炙り出す治安維持に一役買っているとでも言えば聞こえはいいだろうか?、




 兎も角として、そんな巨大組織が【冒険者組合ギルド】というわけだ。分かった?




 『うむ!ばっちりと理解出来たとも!……何せ始まって直ぐにお前の記憶を読んだからの!今は道行く人間子らの愛らしい顔を見ておった!』



 はっはっは!そうなんだ!




 いや初めから記憶を見てそうしてくれない??




 ​───────はぁ、まぁいい。


 とりあえず、うろ覚えだった冒険者についてのおさらいができたという事にしておこう…。





 そうして、いつの間にか辿り着いていたのは【ロート】のギルド、其の拠点。



 階数は3階。長方形型の巨大な建物で、建物の向こう側から鳴り響く剣戟音から察するに、訓練場まで着いていて、その見た目以上に、その施設の巨躯が知れる。



 建物全体の雰囲気は【野性的】でありながら【実用的】と言ったところか、木と石、そして何らかの生命の骨がふんだんに使われ、盛り込まれた外壁は、何処か"蛮族の王城"の様な風体を成している。



 然し1度触れてみれば、其の圧倒的な頑強さを嫌にでも感じ取らせてき、その文明の築いてきた技術力も、また伝わってきた。


 


 野性味の溢れながらも、その野性味すら意匠としているな建物から視線を外す。


 すればこれまたは蛮族風味の木の看板が目に留まり、そこには【魔熊の洞穴亭】と書かれていた。


 恐らくは、それがこの建物の名前か。



 『っほぉ〜〜。これまたかっこいいではないか!これを作った者はセンスに溢れておるわ!余の城も作ってくれんかのう!』



 「そうか?」と思うも、口を噤む。そこは人​────いや悪魔ひとの価値観だし、余り口にすべきではないだろう。



 ​「モラグはどうせ私の中に居るんだし、お城なんて必要ないでしょ。」



 『………くく…、ま、それもそうじゃな♥』



 目を閉じ、扉に手をかけながらそう口にした私、内側から響く可愛こぶる様な囁き声を聞きながら扉を開ける。





 扉の先に拡がっていたのは、木造と石、そして剥製等の目立つ、人々の想像する【酒場】の様な内装だった。



 夕方時の為か、ポツポツと人が集まりだしている、大半が冒険者であるものの、中にはそうでなさそうな物も見える。あの弦楽器リュートを持って、高らかに声を上げている人は、あからさまに吟遊詩人だろうし…。



 「​────この歌は…っ!ン僕が、長い長い旅で知った曲のうちのひとつ…っ!…さ!」




 …。



 『…吟遊詩人って何奴も此奴もあんな自信満々な顔をしておるのか?』



 …さぁ?



 ​────周囲の事に話を戻そう。丸く小さな机を取り囲む2つから3つの椅子に座って、発泡酒エール蜂蜜酒ミードを呷っては、自らの武勇伝に花を咲かせる。



 …そこには童話や本で出てくるような一般的【冒険者】達の姿が溢れ返っていた。



 そんな中を突っ切っては、私は人々が座り、酒場の店主さんの居るカウンター​─────では無い。



 多くの職員の入り乱れ、【冒険者組合】の人間であることを示す黄金のバッジを胸に着けた職員たちのいる、ギルド用のカウンターへと足を運んでいく。




 ​───そんな時、" ガタッ "と音を立て、私の体が大きく前に傾いた。



 転びかけた体に、慌てて足を1歩前に出して、何とかその体を支える。



 ​────下に向いた目線。入るのは、必要のないほどに通路側に飛び出た1本の足。




 『おっほぉ〜…っひ、くくっ…くひっははは…!』




 何処か嬉しげな声​───いや、嬌声、笑い声が、私の頭の中で響くも、どうせ周りには聞こえていないから今は無視でいい。



 今の相手はコイツだ。




 「​───おっと〜!!?な〜んか小便臭いと思ったら子供が迷い込んでるじゃねぇか〜!」



 「迷子でちゅかぁ〜?それとも事目的でちゅか?…それならもうちょっと大人になってから来てくれよぉ〜、小便の匂いでまともに触れれねぇも〜ん!」



 しん、と静まり返った酒場内で、赤ら顔の男がおどけるように大笑いを続けている。




 ​それをピシャリと断つように、私は目を閉じたような笑みのまま声をかける。




 「​────何か用でもあるの?おじさん。」











 『…くくくくっ…!!あぁ〜……ひっ、ひぃ〜…!くくっ…。』




 いつまで笑ってんだこの悪魔…。

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