第24話

いつもより少し日の暮れた公園。


「...っねぇ!」


「君か...」


まだごめんなさいもありがとうも言えてない状況。少しの気まづさが残る中、僕たちの間にはほのかな暖かさが漂っていた。


「 ...文化祭。見に行ったんだ。ちょっとだけだけど、すごかった。

...私、君に謝らないといけないことがある。


次がないのは二人とも同じなのに、私だけだと思い込んでた。


君にとっての文化祭のこの一瞬はもう二度とないのに...


でも文化祭に行って、君の行動力を尊敬した。

君の言う通り私は口だけで、自分に言い聞かせているだけだった。

行動できてなかった。ほんとにごめん。」



僕が言うはずだった謝罪は先を越され彼女から切り出された。


「いや、こっちこそごめん。僕も人の気持ち全然考えられてなかった...。君と喧嘩した後、君の強さと優しさに気付いた。仲直り、したい。」


「うん。仲直り。私も君みたいに行動で

きるように頑張るよ。」


案外あっさりとできた仲直りに酷く心から安心する。


病院で出会ったあの日、お互いの中の固執は既になくなっていると分かっていながらも今この瞬間までずっと心臓の音はうるさかった。




「うん。僕も、君みたいに強い人になりた

い。」



ここで僕は仲直りしたら見せようと思っていたものを取り出す。



「絵!完成したから。」


彼女の絵を描いてくると約束をしたあの日から随分日が経ってしまった。


しかし、ようやく自分の納得のいく作品が出来上がったのだ。


「ほんと!?」


彼女は嬉しそうに開いている僕の隣に座ってくる。


小さなキャンバスに描いた彼女の姿。


それは黄色い向日葵に囲まれたピンクのイルカだった。


「イルカ?これはどういう意味なの?」


「イルカにはね、救済っていう意味があるんだ。



君は僕の救世主だから。」


「そんな、大げさだよ。」



彼女は照れくさそうに笑った。



「ううん。僕を孤独から救ってくれた。僕を一人にしないでくれた。」


「それは君もだよ。私も君がいる間は一人じゃないと思えた。」



「思えたんじゃなくて実際そうなんだよ。...君には僕がいるから。」


少々くさいセリフを吐いたという自覚はある。でも彼女の笑顔はいつもより何倍も輝いていた。


「そっか。私は幸せ者だな。」



自然に会話が終了し、沈黙が流れる。しかしそこに居心地の悪さはなく、そのまま各々好きなことを始める。



僕は絵を描いて、彼女はカメラを取り出す。




カシャ



シャッターを切る音が不意に聞こえた。


「何撮ったの?」


「君が絵を描いているところ。今日はなに描いてるの?空?」



「うん。」


「綺麗だね。」



本当に綺麗だった。



その時間も、空間も、世界も、全て。




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