第22話

息を吸って、吐いて、呼吸を落ち着かせる。


学校の先生から情報をゲットし彼女の病室までやってきた僕はドアをノックした。



「どちら様?」


そこに彼女の姿はなく、その代わりに彼女の母であろう人が立っていた。


「あ、あの、七海さんと同じクラスの…」


「あー、あなたが。」


そうやって僕の方を訝しげに見つめる。

その目線は僕のことをよく思っていないことが丸わかりだった。



「娘から話はよく聞いているわ。…そういえばこの前、あの子泣いて帰ってきたんだけど、何か知ってる?」



明らかに僕が泣かせた、そういうような確信を持って僕に問いかけてくる。


「…実は喧嘩してて。あのっ今日は謝りに、」


「悪いけど、もう会わないでくれる?」



僕の言葉を遮って放たれたその言葉は僕を失望させるには十分だった。


一瞬のうちに、このまま喧嘩して一生会うことが出来ない未来が想像できる。



「あの子最近病院抜け出したり、一人でい

ることが多いからか、変に大人じみたこと言ったり…きっと関わってもお互いに悪影響を与えるだけよ。あなたもそう思うでしょ。無理してうちの子に会わなくてもいいのよ。」


「無理して会ってなんか…!」


「あの子、頑固で人の言うこともあまり聞けないタイプだから。」



押し負かされ続けていた僕だが、そこで僅かな反抗心が湧き出てきた。



「それは違います!彼女はそんな人じゃありません。確かに彼女は、妙に大人じみてます。頑固なところもあるかもしれません。



でも、それのおかげで僕は助けられました…彼女の強さに勇気付けられました。


生きてみようって思いました。







…彼女は、優しい人です。」



いくら彼女の母親でも彼女の本心を理解していないような気がした。

自分でもちゃんとした言葉を言えているのか、変なことを口走っていないか、不安になりながら言葉を吐き出す。



これは単なる僕のエゴかもしれない。


本当に僕たちはもう会わない方がいいのかもしれない。



でもそれはたとえ彼女の為になっても、

僕の為にはならないことは確かだった。



いつも周りを見て、行動を合わせて、誰かに何かを言われたら「はい」「大丈夫です」と答えてきた僕。


彼女に出会えてから少しぐらい自己中に、自分のために生きてみようと思えた。


僕の言葉を聞き、呆気に取られていたような顔をした彼女の母親に深くお辞儀をしてその場を立ち去ろうとして、ドアを開ける。







彼女がいた。


涙を堪えるような、でも口角をほのかにあげているような、そんな顔をして。




「ごめんなさい」その言葉が出てくるよりも先に僕は思わず別の言葉をかけていた。




「ねぇ、文化祭見にきてよ。」




彼女は静かに頷き、



「終わったらいつもの公園集合ね。」



そう言って微笑んだ。



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