第5話 ゴブリン討伐
「よしっ! まずは私がいくねっ!」
迷わず飛び出したのは、リンさんだった。
剣を構えゴブリンの集団に突っ込んでいく。
「……ギッ!?」
リンさんの姿に気づいたゴブリンが迎撃しようと棍棒を振り下ろしたが、リンさんはひらりと身を翻した。
そして、ゴブリンの攻撃が空を切ると同時に、その胴体に斬撃を放つ。
「やっ!」
金属音が鳴り響く。
だが、大きなダメージは与えられなかったのかゴブリンは一瞬怯んだだけで、再びリンさんに襲いかかった。
リンさんは華麗にゴブリンの攻撃をかわして斬撃を放つも、再び鎧に弾かれてしまう。
う〜む。スピードを活かした攻撃でゴブリンをうまく翻弄しているけれど、仕留めるにはすごく時間がかかりそうだ。
原因は筋力かな?
ちょっと【鑑定眼】でステータスを見てみるか。
名前:リン・フィッシャー
種族:人間
職業:剣士
レベル:9
HP:110/110
MP:20/20
生命力:11
筋力:6
知力:2
精神力:2
俊敏力:12
持久力:10
運:5
スキル:【ダブルアタック】
状態:普通
うん、やっぱりか。
アタッカーにしては筋力が低い。
俊敏力と持久力は普通だから、これまでそれを武器に戦ってきたんだろう。
まぁ、ゴブリンすら倒すのに時間がかかってるから、本当に武器になっていたかどうかはわからないけど。
「リンさん! 付与術をかけます!」
「了解っ!」
付与術を発動させる。
リンさんの体が赤く輝いた瞬間──彼女の剣が、ゴブリンの体を真っ二つにした。
「……うえっ!?」
斬撃を放ったリンさん自身が一番驚いている様子。
「ちょま……え!? 一発でゴブリン倒しちゃったけど!? え!? デズきゅん何したの!?」
「【筋力強化】の付与術をかけました! 一時的にリンさんの筋力が20倍になってます!」
「にじゅ……!? マジすか!?」
「でも、相手の数が多いので油断しないでください!」
言ったそばから、屍を乗り越えて2体のゴブリンがリンさんに飛びかかる。
筋力強化しているおかげで難なく撃退に成功したけれど、小部屋から新しいゴブリンがわらわらと出てきているのが見えた。
あわわ。試験は10体倒せば終わりだけど、10じゃ終わりそうにない。
本当なら、魔術でデバフをかけて
「……わ、私、ですよね?」
ドロシーさんがびくりと身をすくませた。
「は、はい。できればドロシーさんの魔術で殲滅したいんですけど……できますかね?」
「じ、じ、実は私、魔力があまりなくて、い、1日1回しか魔術が使えないんです」
「…………へ?」
なにそれどういうこと?
名前:ドロシー・ヤンソン
種族:ハーフエルフ
職業:魔術師
レベル:7
HP:50/50
MP:8/8
生命力:5
筋力:3
知力:10
精神力:2
俊敏力:9
持久力:5
運:12
スキル:【縮退魔術】
状態:普通
本当だ。MPが8しかない。
これは精神力が低いのが原因かな。
知力は普通だからダメージには期待できるけど、これじゃ本当に1日1回くらいしか使えないな。
というか、スキルの【縮退魔術】ってなんだろう?
「で、でも、ランクⅢまでの魔術は使えるので、使い所さえ間違えなければ殲滅できると思います!」
「わかりました。だったら、使い所を考えなくていいようにしてあげますね」
「……えっ?」
かける付与術は【精神力強化Ⅰ】かな。
精神力は最大MP値に関係しているから、精神力を上げれば魔力量を20倍にすることができるはず。
MPが160になれば、消費MPが高いランクⅢの魔術でも自由に使えるよね。
「付与術をかけました。試しに魔術を撃ってみてください」
「え? あ……は、はい!」
ドロシーさんが杖を構える。
杖の先にある魔法石が青白く輝き、渦のようなものが現れた。
これは水系の魔術かな?
「……行きます! 【水球弾Ⅲ】っ!」
空気が破裂したような音が響いた瞬間、杖の先から巨大な水球が発射された。
四大元素の水系魔術。それも中位の魔術だ。
すごい。本当にランクⅢの魔術が使えたんだな。
水球はガランドさんやリンさんの頭上を猛スピードで越え、ゴブリンがたむろしている小部屋の入り口に命中した。
轟音とともに小部屋の入り口が崩れ落ち、数体のゴブリンたちが瓦礫の中に消えていった。
おお、すごい。一発で半分くらいのゴブリンを仕留めちゃったぞ。
「す、すごい……すごいですよ、デズモンドさん!」
感動していたのは僕だけじゃなかったみたいだ。
ドロシーさんが興奮したように続ける。
「かっ、体の奥から魔力が溢れ出してきているのがわかります!」
「ついでに【魔力回復量強化】もかけておいたんです。いつもの20倍の速さでMP……じゃなくて魔力が回復してると思います」
「ふぁ!? そんなものまで!?」
【精神力強化】と【魔力回復量強化】はいつもセットでかけるようにしている。
このふたつがあれば、魔術師は半永久的に魔術をぶっ放すことができるようになるんだよね。エスパーダにいたときもこれでマリンが無双していたっけ。
ドロシーさんのお陰でゴブリンの住処は破壊され、追加増援が現れることもなく戦闘はあっさり終了した。
「……ふぅ、これで終わりか」
ようやく辺りが静かになり、ガランドさんが盾をおろした。
「皆、怪我はないか?」
「は〜い! こっちは問題ないよ〜!」
「わ、私も……」
「僕も平気です」
全員、怪我もないようだ。
ほっと一安心。
最初はどうなることかと思ったけど、うまく立ち回れたようで良かった。
周囲に倒れているゴブリンの屍を確認したところ20体ほどあった。
試験は10体の討伐なので、十分すぎる数。
一応、換金できるアイテムを持ってないか漁っておくか。
「お疲れ様です」
試験官らしき人がやってきた。
彼は周囲に散らばっているゴブリンの数をかぞえはじめる。
「1、2、3……はい。55番パーティ、試験クリアですね」
「ぃやったっ!」
リンさんが嬉しそうに飛び跳ねる。
このスピードだと、試験クリアは一番乗りかな?
これは高評価が期待できるかもしれない。
「……キミ、名前は?」
と、試験官さんに声をかけられた。
「え? あ、デ、デズモンドです」
「デズモンドくん……ああ、あった。これか」
試験官さんは手にしていた紙に視線を落とす。
多分、受付のときに書いた受付票だ。
「……えっ!? キミD級なの!?」
驚いたような声を上げる試験官さん。
ちょっとだけ不安になった。もしかして何か問題でもあったのだろうか。
「あ、あの、何かありましたか?」
「あ、いやいや、ちょっとキミのことが気になってさ」
「気になる?」
「うん。ずっと見てたけど、キミの付与術……ちょっと凄すぎない?」
「……え」
「実は俺も付与術師でさ。第四旅団に所属しているB級冒険者なんだけど、俺よりも凄い付与術を使うもんだから完全に自信喪失しちゃったよ。キミ、D級なのになんでそんなに凄い付与術使えるの?」
苦笑いを浮かべる試験官さん。
ええと、これって……褒められているんですかね?
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