第四話ーハイライトー

噂の回りは早い。同時に、彼女の傷も深くなっていった。

彼女の居場所は完全に消滅した。席も荒らされ、結局何もできないまま友達も黙るしかなかった。回った噂は「彼女は病んでるって勘違いしてる」ということだった。無理やり心を抑えて笑っており、目が真っ黒になると怒ってるという噂だった。彼女は何度か相談していたが、その痛みは勘違いで病んでもなくことを大きく捉えてしまってるただの馬鹿だった、という内容だ。クラスメイトは口々に質問する。

「本当?」

「そうだったら言ってくれたらいいのに」

「大丈夫だよ」

彼女には何も届かなかった。いや、届いていたが全て背を向けていた。でも、ただ一人手を握ってくれる者がいた。その者のぬくもりに触れた時、彼女は初めてずっと閉じていた目を開いた。全員を信頼したわけではないが、多少取り戻したように見えた。

ある時間、一人が声をかけてきた。事情を知らないふりをしている、彼女が疑問に思いつつある人物だった。

「最近元気ないけど大丈夫?俺でよかったらまた言ってな。なんでもするから」

温かい言葉だった。本当に思ってることが声色から伝わる。

「大丈夫だよ。整理つけてるから。」

彼女はそう言い、笑みを浮かべた。でも、目は笑っておらず、いつも助けを求めていた。

その時、彼女の目が一瞬だけハイライトを失い、悲しみで光った。そのあと、ほんの一瞬真っ暗になった。"助けて"が伝わる。凝視していないと見れない、本当のSOSだった。彼女は取り繕うのが上手く、気付けないように、気づかれないように、人に迷惑をかけないように笑っていたのだ。彼は、それに気づいた。彼の目は、最後のSOSを捉えていたのだ。由菜は、そのことに気付き、彼の指を握った。冷たかった。まるで氷のように冷え切った指先。その温度はまさに心を表していたのだ。"彼なら信頼できる" そう由菜は判断した。その判断は、いずれ事態を大きく変えることになるとは知らず、変わらず由菜は彼の指を握っていた。

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