第3話 自分だけが知らないこと
その事を頭で理解するまでに夕は約1分程度、無言のまま洗面所の鏡の前で立ち尽くしていた。
(これが自分にしか見えてなかったらまだ夢だよな!絶対なんか言われるから!)
冷静になったのであろう、夕はこれが自分だけの夢なのかを確認すべく、リビングヘ急ぐ。
しかし、そんな期待は虚しくも、リビングの様子や、ある人物達の言葉によってビリビリに破り捨てられた。
「おはょ、、、。ねぇ、俺の目って──────」
「え?!嘘?!あのニュース本当だったの?」
「夕、神体を宿してんの?!」
「おい! 早く政府に連絡しろ!」
少し食いぎみに両親と姉の言葉が混ざり合って、心地の悪い不協和音が夕の耳を通り抜けていく。聞き取りずらいはずなのに、夕は各々が何を言っているのかをなぜか、しっかりと理解できた。
父親は、電話がある廊下へと出ていった。
「え? 璃乃(りの)、神体って何? 俺、何かおかしいの?やっぱ、俺の目おかしいよね?ニュースって何?何で政府が絡んでくんの?ねぇ!
────ハァ、ハァ──」
夕は、そんな家族に軽く引きながら疑問に思っていたであろうことを片っ端から聞く。目を見ると瞳孔が開ききっていて、相当混乱していることが窺える。お陰で、息が上がり肩で呼吸している始末だ。
「ちょっと夕、落ちつこうよ。ちゃんと全部答えてあげ──」
「璃乃、口を慎みなさい」
夕の姉-璃乃はいつもの調子で接してくるが、母親の方は明らかに夕に対して敬うような素振りをする。
そして、次の瞬間、衝撃的な単語が母親の口から飛び出したのだ。
「──え、でも、、」
「慎みなさい。ここに居るのは《神》様なのよ?」
「───はい、、、」
「は?、、、!?」
ワンテンポ遅れて、夕は自身の母親の言葉をやっと理解したようだった。
「先に確認なんだけど、昨日までこうじゃなかったよね?」
夕としては少し心配だった。
最近、異世界転生だの転移だのがラノベで流行っいてるから、自分も寝ている間に転移していて、現代とかなり近いものだがまた別の異世界に来てしまったと思ったのだ。
「当たり前でしょ!こんなことずっと前からあったら相当ヤバイでしょ!」
璃乃は、先程からテーブルに人差し指の爪でコツッコツッコツッと速いテンポを刻みながら怒鳴る。
(相当イラついてんな、これ、、)
「じゃあ、なんで神体?とか知ってたんだよ!」
夕も負けずと、怒鳴るように聞く。
「ニュースでやってたのよ、、、全世界的に一定数の人間が、まず人間では不可能な事が出来る生命体に変化してるって」
「その生命体の特徴が自然な肌の色や瞳の色、髪の色が不自然なというか、あり得ない色に変化してるって話だ。んで、その変化した部位に神体って定義を定めたとかって話らしい」
いつの間にか父親はリビングに戻っていたようだ。
「でも、、、、でも、だからってなんで政府のに連絡する必要があるのさ!」
「何でも、政府が保護するらしいわよ?」
「全世界でキリスト教やイスラム教とかの神様を信仰する信者の人たちが口を揃えて『神のお告げがあった。神々が地上に舞い降り、我々を救って下さる!』って言ってるとか」
「ってことで、その生命体達を神って、国で、、、いいえ、世界で認識をしたとかってことも報道してたわね」
「だからその神をもてなし、敬うっていう義務も日本政府が定めたとか言ってたなぁ」
危機感を持っているのか、持っていないのか分からないが、呑気にあくびをしながら父親は言う。
「あぁ、だから、、、。にしても国、、いや世界の対応速くない?変化?っていうの?それ始まったのいつだよ?」
「う~ん。今日の午前零時頃だって言ってた気がする。まぁ、確かに速すぎる気もするけど、、、」
──プルルルルル──
──プルルルルル─────
そんな話をしていると、家の備え付けの電話が突然なる。
「おい、そろそろ政府の関係者がお前の身柄を保護しに来るぞ」
「保護って、、柄にもなく詳しい説明ありがとう、、父さん」
(これからどうなるのだろうか、、
面倒な事にならないことを祈るしかないな)
そう思い、夕はリビングの天井を見上げていた。
自分だけが異質なこの世界で~生まれ変わった世界と神々の魂を持つ者達~ 十六夜 水明 @chinoki
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