第1話 普通のお話とは少し違う話
竜胆 黎(りんどう れい)───
これが、奴の名前。
今思えば俺が、奴のことを認識したきっかけは新学期、自己紹介での事だった。
最初は、ただ珍しい名前だなと思っただけだった。
まぁ、俺も人のこと言えないけど。
奴と俺は、中学2年。
────────同い年だ。
それも、同じ誕生日。
気味悪く感じるかもしれないが、これが現実だ。
◐◌◐◌◐◌
「───────といいます。趣味は────です。
今年一年よろしくお願いします」
新学期、高2に進級して1日目。
去年とは違う景色が見れる2階の教室。
外では、つい数日前までは肌寒かったが今では暖かみを帯始めた風がそよそよと吹いている。
知らない顔ぶれ、その中でも一際顔立ちが整った奴がいた。
「じゃあ、次。竜胆」
新しい担任─和柴(わしば)先生が淡々と指名すると、
背がスラッと高く、かといって『のっぽ』という言葉が似合うか、といったらあまり似合わない、『イケメン』と言った方が適切だと思われる男子生徒が艶のある黒髪を揺らしながら立ち上がった。
残念なことに、俺の席は奴の斜め後ろだったため、よく顔が見えない。
「竜胆 黎と言います。ちなみに、黎って字は黎明の黎で個人的に気に入っています」
奴-竜胆は、自分の名前とその名前が気に入っている、というなんとも必要がないことを口頭で述べた。
「あ、趣味はについて言わなきゃ」
そう。この自己紹介では、その他に趣味を述べなければならない。
「─趣味は、読書です。読書って自分の世界観を広げることが出来るから楽しいですよね。一年間よろしくお願いします」
趣味は読書?あぁ、女子からの好感度高そうだな。
顔面偏差値かなり高いし、背も高い。おまけに趣味は読書という情報を流し、学があることを匂わせる。
喋り方も、上手く間を使ったり確認を取ったりしていて、周りに馴染みやすさを主張している。
まるで────
(どう喋るか最初から計算した演技のようだ)
案の定、クラスの雰囲気は新学期が始まったことによる緊張感から竜胆を受け入れるものに変化した。
自己紹介が終わり、竜胆が席に座る。
その時、俺の気のせいかもしれないが竜胆の口元が弧をうって目元は細めて何か考えているようだった。
その行動は、俺にとって先程までの考察を裏付けるものだった。
よくよく考えれば変だ。
そりゃ、どの学校にもイケメンと呼ばれる人種は少なからずいる。
そして、思春期の真っ只中で噂好きである中学生は、どんどん話を広めていくのだ。
だから、竜胆も噂されていて当然なのだ。
なのに──────
───そもそも竜胆 黎という名前を聞いたことがない。
何かがおかしい。
違和感しかない。
そんなこんなで、自己紹介は終わり、休み時間に入る。
俺は、先生の荷物運びで階段を降りていた。
「こ、、琥頭 夕(ことう ゆう)で間違ってない?名前」
「ッ?!」
急に後ろから声をかけられため、驚いて階段を踏み外すところだったが、なんとか持ちこたえる。
「あぁ。間違ってないけど何?」
後ろに振り向くと、あの竜胆がいた。
「僕は必要ないことが嫌いなんだ。だから単刀直入に聞く」
「必要ないことが嫌い?じゃあ、さっきの名前のくだりはなんだったんだ?」
「あ、あの事は、まぁ、ねぇ、、」
俺が、聞くと聞かれたくなかったのか、なぜか答えを濁してくる。
「まぁ、どうでも良いけど。聞きたいことって?」
俺は、話を戻してやった。
「えっと、、君、僕と会ったことある?」
「え?無いけど?」
即答。すると、なぜか竜胆は肩を落として、落ち込んでいるようだ。
意味が分からない。
こんな、変な奴1度会ったら絶対に忘れないだろう。
「そうか、知り合いに似てたんだけどな、ごめん人違いだったっぽいや」
「そうか、なんかごめんな」
そうして竜胆は教室に戻っていった。
竜胆は、その日、終始、社交辞令のように人懐っこい笑みを絶やさずに生活していた。
◌◐◌◐◌◐
クラスのイケメン。
そんなのは、どこにでもある〖普通のお話〗だ。
でも、ここまで奥が見えないような奴は初めて見た。
何か、まだ隠しているのだろう。
そう考えると鳥肌が立つ。
知りたいような、知りたくないような、、。
こんな〖少し違う話〗はどこにでもあるものなのだろうか。
こうして、俺の1日は閉じられた。
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