第28階 ※最前攻略組※

 簡易ギルド裏。

 ギルド職員のみが入ることができる木製の小屋の中で、2人の男性が机に向かい合って椅子に座っていた。

 

「共同攻略依頼?」


 バクターがギルドの人間から渡された依頼書。

 そこにはよりダンジョンの攻略を進める為、優秀な探索者による共同攻略依頼が指令された旨が書かれていた。


「はい、A級のガルトリッサさんを中心に優秀な探索者を集めるとのことですね」

「そりゃ勝手だけどよぉ……なんで俺らにその依頼が回ってくるんだ?」


 基本的にダンジョンで得た情報はギルドに売っている。

 俺たちの知っている情報は、大体がギルドも把握しているのだ。


「それはバクターさんの優秀さを見込んでですね……」

「優秀さ、ね」


 冒険者ギルドの階級は明確な差がある。

 B級とC級では、人数では勝っていても戦力的にみると足元にも及ばないなんてざらにある事なのだ。

 

 予想するに、ダンジョンに先行して挑んでいた分案内人としての雇用だろう。

 結局のところは戦力としては期待されていない。


 だからこそ、依頼の内容が俺『一人』を対象にしたものなのだろう。


「これは任意じゃないからな。俺には受けるしかねぇ」

「……よろしくお願いします」


 そう言って、ギルド職員は一礼すると逃げるように扉を開けて外へ出た。

 バクターは目を閉じ、力を抜いて背もたれに寄りかかる。


「めんどくせぇな」


 パーティ単位での共同依頼、その中でも俺はCであり最低ランク。

 つまり自分より上位のパーティに下の立場の人間として参加することになる。

 優秀な冒険者は癖が強い。だからこそ面倒なのだ。

 

「あのエルフ姉妹に、ピグラスまでくんのかよ……」


 今でもうんざりする記憶に、頭を抱えるバクター。

 それでも、従う以外バクターに選択肢は残されていなかった。


 時は経ち、攻略共同パーティのダンジョン攻略開始日。

 目の光が消えたバクターがダンジョン入り口の近くで立っていた。

 

「おやおやおや~?これこれはバクター君じゃないっすか、おひさ~」

「……どうも、ナルミさん。お久しぶりっす」


 背に大きな木槌を背負った女性のエルフがこちらへ向かってきている。

 その後ろには弓を背負ったエルフが腕を組んでいた。

 

「どうしたの~元気ないじゃーん。そんなんじゃB級に上がれな「ナルミ、そこまでにしておきなさい」」


 冷たい目で見下すように見上げる耳の長いエルフがもう一人。

 名はサーミア。ナルミの姉である。


 サーミアは身長が低く、子供のように小さい。

 一見するとナルミの方が姉のようにも見えるが、扱える魔法や知識量はサーミアの方が多岐にわたる。

 そもそも、魔法でサーミアを上回る者はそうそういないのだが。


「遊ぶのはその程度にしておきなさい」

「えー、挨拶しただっけっすよ~」

「あはは……」

 

 苦笑いで場をやり過ごすバクター。

 ふんっと顔をそむけるサーミアにバクターの額に青筋が1つ、浮かんですぐに消えた。


「あら~、バクターじゃないの~」

「あ、あぁ……ピグラス、さん」

「もぅ、違うでしょっ。ピグラスちゃんって呼んでっていつも言ってるでしょ~」


 次にバクターの元へ集まってきたのはピグラス。

 

 んもうぅと腰をくねらせる筋骨隆々の逞しい筋肉が、太陽の光を反射していた。

 鍛えられた肉体とは裏腹に女性のような身のこなしをしている。


「本当は依頼受けるつもりなかったんだけど~バクターちゃんが来るって言うから参加しちゃったわ~ん」

「は、はは。嬉しい……っす」

「あ・た・し・も♡」


 背筋に冷たいものが走るバクター。

 筋肉だるまから欲しくもない熱い視線を送られている。


「あとはバステルンさんか……」


 体を寄せるピグラスに少しずつ体が逃げるバクター。

 香水でも振っているのか、妙に良い匂いが腹立たしい。


「おぉ、皆早いなぁ」

「バステルンさん!」

 

 茶皮のハットに皮のロングコートを着込んでいる白髪の男性。

 年季の入った顔つきは、ところどころに小さな傷が刻まれている。


「おぉバクター、ちょっと見ないうちにデカくなったのう!」

「身長はあんまり伸びてないっすけどね」

「顔つきが良くなったって意味じゃよォ!」


 ニコニコと笑顔でバクターの背中を叩くバステルン。

 駆け出し冒険者の時に1度一緒の依頼で合うことがあり、そこから何かと気にかけてくれる"数少ない"頼れる人間だ。

 

「まさか共同依頼で肩を並べる日が来るとはのうぅ。嬉しいぞ~」

「ちょ、バステルンさん!痛いっス!」

 

 バクターの頭をわしゃわしゃと搔き撫でるバステルン。

 今この時、バクターは子供のような笑みを浮かべていた。


「聞いたぞ?なんでもこの遺跡に関しては最前線で頑張ってるらしいじゃないか」

「そんな、大したことないっスよ。仲間のおかげで」

「言うようになったじゃないか!」

 

 声高らかに笑うバステルン。

 優しい人だが、腰に携えられた巻かれた蛇皮の鞭は敵に対しては容赦なく振るわれることをバクターは知っていた。

 

「おぉー、全員いるか~」


 ダンジョンの入り口から黄金の槍斧を担いだ赤髪の女性が気怠げに呼びかけた。

 胸当てと、腰に竜の皮で出来た黒い腰巻を巻いている。

 小麦に焼け鍛えられた肉体を惜しげもなく晒していた。

 

「おぉ、ガルトリッサ嬢。久しいのぉ」

「嬢呼びはやめろっていつも言ってんだろジジイ」


 うんざりとした顔でガルトリッサがバクター達の元へ近づく。

 長く冒険者として在籍しているだけあってバステルンは顔が広く、高ランクの冒険者とも話す機会が多い。

 ガルトリッサと会話するバステルンは軽口を挟みながら世間話をしている。

 

「最近忙しそうじゃのう。少し前はキルトル北山脈の討伐依頼を受けていると聞いたんじゃが」

「あぁ、その依頼が終わった途端とんぼ返りだぜ。人使いの荒ぇギルドだ」

「嬢は根は真面目じゃからのう。頼みやすいんじゃろ」

「うるせぇ、真面目じゃねぇ」

 

 パーティを見渡したガルトリッサはバクターを見つけると、小さくため息をついてダンジョンへ向き直った。

 格上の冒険者にため息をつかれ、バクターの顔が強張る。

 

「さっさと終わらせるぞ、私は忙しいんだ」

 

 その一言と共に、ガルトリッサ率いる攻略組の挑戦が始まったのだった。

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2024年5月28日 19:00

ろくでもない女神の目についたら、人生強制リスタートさせられた件 お砂糖さん @osatou10g

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