第26話「第一発見者」



■■カーテンの開かない部屋■■




 兄のように慕っていた従兄がいた。


 彼は私に勉強を教えてくれた。


 私はもうずっと学校に行っていなかった。

 

 彼は私に笑いかけてくれた。


 両親はずっと私を憐れんでいた。


 彼は中身のない話をしてくれた。


 友人たちは勝手に私で友情ドラマをやっていた。


 彼は私のことを見ている間、彼の全部をくれた。

 

 他人ひとは私を通じて自分を形作ることに必死だった。

 

 彼はずっとなにかを疑って生きていた。


 みんなは自分が普通って顔をしていた。


 彼はずっと自分と戦っていた。


 誰しも外の世界に答えがあると思っていた。

 

 彼は優しかった。


 誰だって優しかった。


 この時の私は世界の全部がくだらなくってしょうがなかった。


 お兄ちゃんだけが――私の唯一の光だった。


 

 ……その日。


 いつものように私はお兄ちゃんのところへ足を運んだ。

 

 部屋の中は真っ暗だった。


 自動車道を走るトラックの地響きはその部屋の一部であるように感じた。


 救急車を待つ間、薄暗闇の中でお兄ちゃんの好きだった曲がずっと流れ続けていた。

 

 お兄ちゃん。


 お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。


 ねえ。どうして。


 あなたはこんなところで死んでいるの。




▲▲~了~▲▲

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