第24話「取り囲まれる二人」



■■林を抜けた先で■■



 

「シアさん、ストップ」


 

 雪原へ出る直前、僕はその気配に気付いた。


 間もなく、頭上の木々から降ってきたが僕たちの周囲を取り囲む。



「……何者ですか、あなたたちは」



 腰元の長剣に手を伸ばしながら、シアさんがその男たちに声をかけた。


 確か『ホワイトグリズリー』と呼ばれる魔物だったか――白い獣の革に身を包んだ彼らは、どこか怒りの滲んだ眼でこちらの様子を窺っている。


 

「俺たちは怪しいものじゃない。尋ね人があってな、ここいらで髪の赤い細身の女を見なかったか」


「見ていませんね。……あなたがたはどうしてその方を探していらっしゃるのですか」


「いや、なに、そいつにとある計画を台無しにされてな。その返礼をしようと考えているのよ」


「……いずれにせよ、穏便な話ではないようですね。ここを誰の領地と心得ているのですか。フェレライの地でそのような真似は見過ごせません」


「ち……フェレライ家に連なる人間か。おい、野郎ども!」



 そのかけ声で彼らは各々の武器を携えた。



「ちょっ、シアさん戦う気……!? 荒事は僕に――」


「囲まれているのです、そう悠長なことも云っていられないでしょう」


 

 その声には静かな殺気が籠っていた。


 僕は嘆息して剣を構える。



「せめて、補助はかけさせてもらうよ」


「はい、お手間をおかけします」



 僕はシアさんと同行することも考えて事前にセットしていた補助魔法を発動する。


 

「堅鎧【アルマ】」


 

 唱えると彼女を薄い光が覆った。確認して、僕は続ける。

 

 

「守套【マンテルム】鉄壁【フェレルム】氷壁【グラシエス】雲壁【ヌーベス】灰壁【キニス】鏡壁【スぺクルム】【朴念】【空蝉】【養身】【発起】――」


「いやかけすぎです」


「よし、これでいいぞ」



 ちらりと見ると、シアさんの周囲がなんかすごいことになっていた。


 白やら緑やら赤やらに光り輝いていたり、透明なヴェールのようなものが見えたり、塵やら鉄片やらが舞っていたり、氷が張っていたり、霞がかっていたり、姿が朧気だったり――。

 

 

「面妖な……」



 敵の一人がそう呟くのが聞こえた。


 それが皮切りになったのか、シアさんは男たちに斬り込んでいく。


 彼女は剛剣の使い手だ。自身のリーチに、得物の刀身の長さを加えることによって、一撃一撃に鋭い重みを持たせる。


 その剣を最初に受けた男は、防御のために掲げた斧の柄ごと断ち切られて息絶えた。

 

 かつて、この国をいくつもの魔物たちが跋扈した時代――『どんな生き物もとりあえず初撃で【衰弱(致死)】を付与して血を流させ続ければいずれは死ぬだろう』というあまりにも大雑把で暴力的な発想によって生まれたその剣術は、盾を持つことと手数を犠牲にする代わりに、この世界から最も多くの魔物を葬り去ったと云われている。


 【千魔一剣せんまいっけん】――この流派を前に回避ではなく防御を選んだ時点で、男の末路は決まっていた。

 


「示現流……怖えー……」


 

 見届けた僕はそのまま背後の男たちに向かう。


 さすがにあんなのは真似できないが。


 まあ、僕も僕なりの戦い方でやらせてもらおう。


 

「【ラウンドアバウト】計測開始――」


 

 さて目の前の彼らは。


 

 



▲▲~了~▲▲

 

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